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カテゴリー: 1 Journal – IRONMAN World Championship
IRONMAN WORLD CHAMPIONSHIP KONA 2024 Result
2024年のKONAが終わった。
優勝を飾ったのはドイツのベテラン、パトリック・ランゲだった。自身3度目の優勝は驚異的なコースレコードを叩き出した。
ランゲの優勝を予想していた人はどのくらいいたのだろうか。2017年、2018年と連覇してから6年ぶりに返り咲くことを。今年で38歳、同じくドイツの先輩、ヤン・フロデノの最後の優勝は2019年の38歳の時。世界の選手は強い、と言うだけで良いのだろうか。
単なる優勝ではない。7時間35分という考えられないタイムであったことは3種目全てがバランス良く、完璧な走りを示している。38歳で「進化」した姿を見せつけたと言うことだ。
その走りは、やはり、得意のランが凄かった。昨年のニースでも快走を見せ、2位ではあったが、2時間32分というタイムを叩き出している。その姿は過去最も美しい走りをする選手ではないだろうか。
ランに入り先行する昨年覇者サム・レイドローを猛追していたが、レイドローはまさかの大ブレーキとなった。大きく減速してしまったレイドローに声をかけながら抜かしたランゲは、そこからまた一段ギアを上げた。叩きのめすかのようにレイドローの目の前で一気にペースアップ。絶望感を与えた。
ランゲの走りは安定し、後では、2位争いが行われているが、別格の走りで異次元となっていた。昨年は惜しくも2位に終わっているだけに何としても優勝したかったはずだ。また年齢的にもこれからは厳しくなる中での優勝は歓喜のゴールとなった。
元々、感情を大きく表すランゲだが、今回のゴールの瞬間は爆発していた。
Top five professional men’s results:
SWIM | BIKE | RUN | FINISH | ||
1. Patrick Lange | DEU | 00:47:09 | 04:06:22 | 02:37:34 | 07:35:53 |
2. Magnus Ditlev | DNK | 00:48:18 | 04:02:52 | 02:46:10 | 07:43:39 |
3. Rudy von Berg | USA | 00:47:18 | 04:05:49 | 02:48:11 | 07:46:00 |
4. Leon Chevalier | FRA | 00:50:43 | 04:01:38 | 02:49:56 | 07:46:54 |
5. Menno Koolhaas | NLD | 00:47:02 | 04:05:02 | 02:50:02 | 07:47:22 |
Full results for the 2024 VinFast IRONMAN World Championship triathlon can be found at www.ironman.com/im-world-championship-kona-results.
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Triathlon “ MONO ” Journalist Nobutaka Otsuka
IRONMAN WORLD CHAMPIONSHIP KONA 2023 Result
今年のKONAが終わった。
チャンピオンとなったのはイギリスのルーシー・チャールズ – バークレイだった。まさに悲願の優勝だった。速かった。女子のコースレコード(8:24:31)を叩き出し、堂々の優勝を飾った。
2017年、彗星のごとく現れたイギリスのマーメイド、ルーシーは、いきなり2位となり、新星誕生となった。ただ、その後の出場は全て2位となり優勝することができなかった。女王ダニエラ・リフという大きな背中が立ちはだかり「万年2位」に甘んじていたのだった。また、昨年は股関節の怪我にも見舞われ思うような走りができていなかった。そして、今回リフも出場、役者が揃った中での優勝は一入だったはずだ。
レースは先行逃げ切りだ。男子でも難しい50分を切るスイムスペシャリスト。そして、バイクが強かった。課題のランとアキレス腱の怪我からバイクでどこまで離せるが勝負だった。コナデビューながら優勝候補でもあったアメリカのテイラー・ニブが2位まで迫る中でも終盤はニブのビハインドを広げ、ランに移った。
その後は、耐えるランだった。ニブの猛追も予想されたが、ランスペシャリスト、ドイツのアンネ・ハウグがスーパーな走りを見せた。2019年優勝のハウグのランは天下一品、男子のパトリック・ランゲに例えられる別格の走力を持っている。ランスタート時のタイム差は15分程度あったが、長いランではどうなるか分からない。ハウグはコースレコード(2:48:23)となるランで追い上げた。
そして、3分差まで迫られたが、見事に逃げ切り優勝となったのだ。ゴールテープを掴んだ瞬間こそ覇気を見せたが、イメージしていた彼女らしい「狂喜乱舞」とはならなかった。持てる力を出し切り、疲れ切った表情で、苦闘だったことを物語っていた。表彰台に上るまでもびっこを引き、痛々しい姿だった。
プロの世界で頂点に立つこととは。。。
本当に素晴らしい走りだった。
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2023年のKONAが始まる。
スイムは予想通り、ルーシーの一人旅となった。ルーシーは一気に飛び出し、後続からの視界から消えてしまうほどリードをしていた。第2パックはローレン・ブランドン、ハレイ・チュラら、スイムスペシャリストたち、第3パックにリフ、ニブ、ハウグらのライバルがひしめき合っていた。
一人先行することはいつも通りだが、今回の気合は違った。第2パックのビハインドは大きく広がり、スイムながらタイム差が気になり出した。スイムでは勝負に大きく影響しないアイアンマンだが、2位ハウグとは5分近いタイム差となり、スイム先行の意味が大きかったケースとなる。
そんな中でもスイムの速い「現役ショート系」のニブは最大のマーク対象だった。ニブは、スイムを第2パックの最後尾で終え、バイクの強いショート系選手としてどのような走りを見せてくれるのか。今回のレースでまず「最初の見せ場」となることを予想していた。ルーシーのスイム先行は確実、スイムも速いニブがどの時点で追いつくのか。
ニブの速さはデータでも出ている。70km弱走った時点で平均パワーは308W、パワーウェイトレシオは脅威の5.0となっている。平均時速は40~41km程度で走り続けていた。ルーシーのパワー比は4.7で、ニブに次いでいる。もはや「男子並み」という表現で良いものか、女子のバイクスピードの高速化にも著しいものがある。
ニブは、バイクを2:16遅れの7番手でスタートし、猛追となった。圧倒的なスピード差を見せ、前の選手たちを抜いて行く。若きモンスターは可能性しかなかった。順調に追い上げ、20km地点では2位まで上がったが、終盤ではそのペースが落ち、ビハインドが広がってしまった。猛追はここまでか、少し予想とは違い、ルーシーは逃げ切ったのだ。
もう一人の優勝候補、女王リフは中盤で3位まで浮上したが、精彩を欠き、順位を落として行った。
残すはランとなった。ルーシーは、2位ニブに4分近い差をつけてスタート。ただ、このタイムはどうにでもなる可能性が高かった。ルーシーは万年2位を抜け出せるのか、はたまたニブのKONAデビューウィンとなるのか。どちらにしてもエキサイティングなランシーンとなった。サイドバイサイドがイメージされ第2の見せ場となるかと思われた。
予想外となったのは、ニブが落ち始めたことだった。後続のハウグ、フィリップからも抜かれ4位に下がった。ただ、後続のランが速かったのだ。ハウグのランの速さは周知のこと、圧倒的なスピードで追い上げていた。それはルーシーも想定内であったため「逃げ切り」の険しさが切実となり、ここで「第2の見せ場」が始まった。タイム差は十分だったが、ハウグの持ちタイムからすれば侮れない、いかに壮絶なランとなったことか。
結果は前述の通り、ランレコードとなったハウグの激走は追いつかず、見事に終始トップ(1979年第2回以来)をキープしたルーシーが初めての優勝を果たした。
ルーシー・チャールズ – バークレイはプロ5度目(2015年エイジチャンピオン)にしてついに世界チャンピオンを座を掴んだ。それもリフの前で成し遂げられたことは、この上ない喜びだったであろう。タイムもレコードであり、文句なしの走りだ。このタイムは男子で言えばSUB8に匹敵するタイムだけに「完全優勝」と言えるだろう。
今までスイムを武器に出てきた選手が世界チャンピオンになるケースはない。そのため、バイク序盤を走っていた選手は入れ替わってしまう。スイム出身の選手にも大きな期待をもたらしたレースであり、その意味でも歴史的な勝利と言えるだろう。今のルーシーは全てが強い。
Top five professional women’s results:
SWIM | BIKE | RUN | FINISH | ||
1. Lucy Charles-Barclay | GBR | 00:49:36 | 04:32:29 | 02:57:37 | 08:24:31 |
2. Anne Haug | DEU | 00:54:10 | 04:40:23 | 02:48:23 | 08:27:33 |
3. Laura Philipp | DEU | 00:56:49 | 04:35:52 | 02:55:24 | 08:32:55 |
4. Taylor Knibb | USA | 00:51:16 | 04:34:00 | 03:05:13 | 08:35:56 |
5. Daniela Ryf | CHE | 00:54:11 | 04:38:34 | 03:02:11 | 08:40:34 |
Age group champion:
Division | Last Name | First Name | Country | Time |
F18-24 | Warfel | Ava | USA | 9:47:27 |
F25-29 | Deruaz | Maëlle | FRA | 9:14:12 |
F30-34 | Besperát | Barbora | CZE | 9:19:52 |
F35-39 | Murray | Vanessa | NZL | 9:34:27 |
F40-44 | Richtrova | Jana | CZE | 9:38:51 |
F45-49 | Jones Lasley | Jessica | USA | 9:57:28 |
F50-54 | Daenzer | Sandra | CHE | 10:19:29 |
F55-59 | Enslin | Michelle | ZAF | 10:40:06 |
F60-64 | Kay-Ness | Donna | USA | 10:57:10 |
F65-69 | Daggett | Judy | USA | 12:22:53 |
F70-74 | Lestrange | Missy | USA | 14:08:00 |
注目のモンスター、テイラー・ニブ。今回不発に終わったが、今一度ターゲットを明確にすれば、確実に勝てる選手だろう。ショートのスピードとパワーを持ち、バイクも最高レベルに速い。勝てないわけがないということだ。今後の動向が最も気になる選手と言えるだろう。
ランではウエアのトップを脱ぎ、走っていたのが印象的だった。今回はKONAの暑さも課題となったことだろう。エイドステーションでは歩きも入っていたが、暑さやスタミナなど「最終確認」となったのではないだろうか。今から来年のニースが楽しみな選手だ。
立役者と言えば、2019年覇者のアンネ・ハウグだろう。ルーシーの大会レコードもハウグの追い上げあってこそのタイムだ。今回のレース展開を見事に盛り上げてくれた。役者を演じているわけではないが、この筋書きのないドラマに興奮させられた。そして、ランのコースレコードを出したこともハウグらしい快挙と言えるだろう。
上の写真はサイドバイサイドとはなっているが、並んだのは一瞬で、一気に抜き去っている。抜かれた時にハウグを見たニブ、ランラップ17分差を感じたのだろうか。ハウグのランは必見とも言えるスピード感だ。このランがあれば、もう一度優勝を狙える40歳だ。
女子選手だけの一日。全体では2097名がスタート、2039名が完走。史上最高の完走率は驚異の97.2%となった。
Triathlon “ MONO ” Journalist Nobutaka Otsuka
IRONMAN WORLD CHAMPIONSHIP NICE 2023 Result
今年のアイアンマンが終わった。
チャンピオンとなったのはフランスのサム・レイドローだった。
昨年のKONAでは2位、バイクレコードを出すなど注目の選手だった。やはり、全種目でバランスが良いが、バイクは特に速い。ハードな山岳コースを4時間31分で走り切った。若干24歳のフランス人は、これからの期待が大きい。
昨年KONAの前、5月のセントジョージでもバイクまでは先頭集団を走りマークはされていた。ただ、クリスティアン・ブルンメンフェルトのランパフォーマンスで影をひそめてしまったが、KONAでのパフォーマンスの高さで、その名を知らしめた。
そんなレイドローは、今回のメンバーの中では「優勝候補」の一人であり、何と言っても地元フランス開催というアドバテージがあった。地元ということでバイクコースは熟知していた。スピードの出る下りでは、コースをどれだけ知っているかによって、全く走りは異なってしまう。
史上最年少のアイアンマンチャンピオンとなったレイドローへの期待は大きい。経験がものを言うとされていたアイアンマンだが、ブルンメンフェルトより更に若く、女子ではテイラー・ニブ、男子では先日のアイアンマン70.3チャンプとなったリコ・ボーゲンなど、若きアイアンマンたちの新しい時代に入った。
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天候はクリアスカイ。バイクスタート時で気温23℃、湿度57%、風速1.4m/sと絶好のコンディションとなった。
さて、スイムはブレーデン・カリーが飛び出し、その後20名以上の集団となった。波は穏やかで、スピードレースの展開となった。ヤン・フロデノは常に上位につき、後半は12名の選手に絞られた。47:46でアメリカのマシュー・マーカードがトップフィニッシュしている。
その後、マーカードがトップでバイクスタートを切った。やはり、今回ニースの醍醐味となるバイクが勝負の大きな鍵を握っていた。まず、驚かされるのは、トッププロの選んだバイクは、「トライアスロンバイク+ディスクホイール」だった。コースを熟知し、下りでのアドバンテージを最優先に考えられた。
特にフランス勢の走りが違っていた。レース序盤からフランスの二人、覇者レイドローとクレメン・ミニョンがバイクを引いていた。当初はフロデノ上位に付けていたが、徐々に後退し、戦線離脱となってしまった。これは、遅れたと言うより、トップの二人が速かった。篩にかけられた後続の選手たちは、落ち始め、最終的にはミニョンも耐え切れず落ち、レイドローの独走となった。
レイドローはバイクのスペシャリスト。更に走り慣れたコース。圧倒的な戦略で4:31:28というパーフェクトを見せた。
そして、5分以上のアドバンテージでランスタートとなった。昨年KONAでのランを見ていると、この時点で決まったと思った。ひと昔であればビハインド10分程度の逆転はあったが、昨今では、トータルバランスの整った選手でなければ勝てない。5分も差が付き、しかもハードなバイクコースからのダメージが大きいため、追いかけられる選手はいないと思われた。
レイドローは3:40/kmのリズムでランを刻み、安定飛行に入った。昨年のKONAでイデンに猛追されたことも、今回はしっかりと逃げ切る良い経験になっていたようだ。ラスト2km地点では反対側のコースを走るフロデノから声をかけられ嬉しそうだった。
ついに歓喜の優勝となった。このハードなバイクコースでSUB8があるかもしれないという手に汗握る記録もかかったレースだった。ランスタート時で残り2時間35分だったため、実際は厳しかったのだが、どこまでSUB8に近づけられるのか、独走状態でペースを維持できるのか、レイドローのメンタルも試される展開となった。タイムは8:06:22。堂々の優勝を飾った。
ゴール後のレイドローは歓喜の渦の中にいた。
Top 10 Professional Men
1. Sam Laidlow (FRA) – 8:06:22
2. Patrick Lange (DEU) – 8:10:17
3. Magnus Ditlev (DEN) – 8:11:43
4. Rudy von Berg (USA) – 8:12:57
5. Leon Chevalier (FRA) – 8:15:07
6. Arthur Horseau (FRA) – 8:18:36
7. Bradly Weiss (RSA) – 8:20:54
8. Gregory Barnaby (ITA) – 8:21:15
9. Robert Wilkowicki (POL) – 8:21:23
10. Clement Mignon (FRA) – 8:24:10
もう一つ。昨日のレースの立役者はもう一人いる。「敢闘賞」とも言えるのが、ドイツのパトリックランゲだった。2017年、2018年KONAを制したランのスペシャリストで、その走りは衰えていなかった。むしろパワーアップした走りは圧巻だったのだ。ここ2年振るわなかったが、このランは神がかっていた。ランが周回となるため、エイジ選手と一緒に走ることになるのだが、抜く時のスピードはまるで歩いている人を抜くかのようなスピード感だった。2017年初めてKONAを制した時のような別格のランは、魅せてくれた。大会最速となる2:32:41には脱帽だった。
最後に。
ヤン・フロデノの “ Last Dance ”となった。2008年の北京五輪金メダリストで、同年にKONAに招待されステージでスピーチしていた時、もう決めていたのだろうか。
その6年後、KONAデビューし、翌年2015年に初優勝している。2016年、2019年、3度のKONA制覇は輝かしい。最も特筆すべくは勝ち方だ。スイム、バイク、ランの総合バランスが高く、「パーフェクトIRONMAN」だった。
フロデノの登場により、「ショートからのアイアンマン」「スピードのアイアンマン」への注目が高まり、アイアンマン70.3はオリンピアンの登竜門となった。そして、現在のブルンメンフェルト、イデンに引き継がれている。
アイアンマン史上最高の選手は、長身で理想的なスタイルで走り、カッコ良さもNo.1だった。もうその姿が見られなくなることは寂しい限りだ。
Triathlon “ MONO ” Journalist Nobutaka Otsuka
KONA 22
■Contents(予定)
【取材予定】IRONMAN WORLD CHAMPIONSHIP ❝ KONA 2022 ❞
トライアスロンの原点、IRONMAN “KONA” WORLD CHAMPIONSHIP が帰って来る。
44回目のKONAのアイアンマンがいよいよ開催となる。1978年オアフ島にて15名で開催され、4回目からハワイ島に舞台を移し、1982年は2回開催、その後、毎年10月にアイアンマンのメインイベントとして開催されている。2018年で40周年となり、2020年、2021年はコロナ禍により中止、今年の5月に2021年大会として、初のハワイ以外となる米国ユタ州セントジョージで世界選手権が開催された。そして、2018年に初の7時間台を記録し、その後、「SUB8」が優勝基準となるスピードアイアンマンとなっている。
今年の話題の一つとなるのが、初の「二日間開催」で行われるということなのだ。今まで土曜日に行われていた大会を、木曜日と土曜日に分けることで、クウォリファイを持った多くの選手が出場できるようになっている。木曜日と土曜日にそれぞれ2500名づつ半々に分け、女子は木曜日に含まれている。ちなみに2023年もすでに二日間開催が決定している。
もちろん、レース内容も面白くなる。後述の通りだが、絶対王者のブルンメンフェルト同一年の2回制覇、バドマンと並ぶ6勝目がかかったリフなど、プロ中のプロが見せるパーフェクトな走りに期待が高まる。
そして、5000台を超える選手のバイクからトレンド、サインを確認することはできるのだろうか。
いずれにしても聖地KONAでのレースが再開となり何よりと言えるだろう。
≪世界最速のアイアンマンを決める日≫
プロ選手のスタートリストが発表された。プロのクウォリファイは各ローカルアイアンマンでのプロ枠獲得がほとんどとなる他、KONAの優勝者は5年間のクウォリファイが付与、2位、3位の選手は、翌年のKONAの出場権を得ることができる。また、ワイルドカードとして、選ばれる選手もいる。5月のセントジョージでは、ブルンメンフェルト、ダフィーの2選手は、東京五輪の優勝者として得ていた。今回は、ドイツのドライツがワイルドカードで出場となっているが、その理由はセントジョージでのオフィシャルとの事故により与えられているなど、救済措置としても使われている。
また、様々な理由でスタートラインに立てない選手もいる。8月のバイク事故で優勝候補の一人フロデノは欠場となったが、セントジョージも怪我で欠場していて連続となるため、極めて残念としか言いようがない。ブルンメンフェルトとの対戦こそ、今回の超目玉だったからだ。今やブルンメンフェルトの走りを疑う人はいないだろう。今回も優勝は99.9%の予想がイメージされるが、スイム、バイク、ランの全てを高次元にバランス良く、パーフェクトな走りをするフロデノはアイアンマン史上最高の選手でもある。北京五輪のチャンプと東京五輪のチャンプの世代を超えた名勝負が期待されていた。
アリスターブラウンリーも疲労骨折で欠場を表明、つい先日だが、セントジョージ女子2位のカットは交通事故で大怪我を負っている。また、デロンは、財政面を理由に欠場となっている。
そして、勝負の行方は。
やはりやってみないと分からないのだが、女子はリフが最有力候補となる。5月のセントジョージで5勝目を上げ、8月のコリンズカップでもコースレコードで優勝するなど絶好調と言えるだろう。そして、6回目の優勝となればバドマンと並ぶ最多タイとなるため、極めて注目度が高い。セントジョージでは、怒りをパワーに変えて見事な優勝となったが、今度はアイアンマン6勝がかかっている。オリンピックのタイトルを獲っていないリフはアイアンマンでその実力を発揮し、不動の地位を築いた選手だ。
一方、男子は前述の通り、「大本命」となるのがブルンメンフェルトだ。昨年の東京五輪の優勝後、一年経たずにアイアンマンも頂点を極めてしまった。まさに二刀流のノルウェー選手で、28歳という若さが魅力。6月のSUB7プロジェクトでは、アイアンマンディスタンスを6:44:25という驚異的なタイムを出し成功している。バイクはドラフティングであることなど、通常レースとの比較はできないが、「今」最も話題を振りまく、大注目の選手なのだ。オリンピアンでありながら、スイムは抑え、バイクもトップには出ない。そして、ランではショートのような勢いでチェイスし、先行を抜き去る。バイクのビハインド10分は「射程距離」ということなのだ。ブルンメンフェルトに勝つためにはバイクのアドバンテージが最低でも10分以上ほしい。
女子は45名、男子は51名の選手がKONAで決戦の時を迎えようとしている。
≪「Triathlon GERONIMO」の使命となるバイクチェック≫
今回の対象バイクは5100台を超える。5月のセントジョージで過去最高の2914台を記録したが、今回は遥かに多いバイクが集まる。何が見えるのか、いつもと違う傾向が出るのだろうか。昨今、KONAでも上位ブランドへの集中化が高まり、8割近くがTOP10ブランドとなっている。
もちろん、台数だけではなく、その中身が重要だ。国内での「ディスクブレーキ」比率は20~30%程度だが、世界ではもっと進んでいるのだろうか。同時に、フルモデルチェンジとなったディスクブレーキのトライアスロンバイクは、ブルンメンフェルトの使用するカデックスで出揃ったと言える。
2016年KONAでローンチとなったサーヴェロP5Xから始まり、2018年KONAのスペシャライズドSHIV、2019年のサーヴェロP5、2020年のスコットPLASMA6とキャニオンSPEEDMAX、昨年8月のコリンズカップでリフやカリーが使用していたフェルトIA、9月のアイアンマン70.3でカヌートが使用していたトレックSpeedconcept。そして、今年5月セントジョージで電撃デビューとなったカデックスTriとなるが、2020年以降リリースのバイクは、初めてのKONA出場なのだ。KONAのバイクシーンに最新バイクが集結する。
今シーズンも石垣島、セントジョージ、横浜、彩の国、皆生、佐渡とカウントをして来たが、3年ぶりのKONAは原点あり、基準となる大会だけに、毎年、各メーカーを始めとする業界サイドから一般選手まで注目が高い。
待ち遠しい「もう一つのKONA」となる。
【大会情報】
■開催日 2022/10/6(木)& 8(土)ハワイ現地時間
■競技 スイム2.4mile / バイク112mile / ラン26.2mile
※Learn More https://www.ironman.com/im-world-championship-2022
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前回2019年のレポート: http://triathlon-geronimo.com/?p=31936
St.George 2021
■Contents
・IM Big Saturday “ Race Result ”
・IM Friday ~ Bike “ Smile ” Check in ~
・【取材予定】IRONMAN WORLD CHAMPIONSHIP “ St. George 2021 ”
IRONMAN WORLD CHAMPIONSHIP 2021 “ GERONIMO COUNT ”
先月開催されたIRONMAN WORLD CHAMPIONSHIP 2021のバイクカウントは以下の通りだった。
予想通りのサーヴェロ1位だが、更にシェアを伸ばし、2019年コナでの20.11%を上回っている。トレックは新型も多く使用され、やはり使用率を伸ばしている。そして、フェルト、スペシャライズド、キャニオンの「第3グループ」は、2019年と同じランキングとなったが、僅差の三つ巴となっている。6位のQRまでが「アイアンマン6大ブランド」と言えるだろう。
今回は、単純にコナと比較が出来ない。台数は約3000台、世界選手権であるが、元々ローカルの格上げ開催でもあり、選手層が多少異なる。ロードバイクも多ければ、DHバー非装着のバイクも多く確認されている。そして、2/3はアメリカ勢となり、「全米選手権」に近い状態でもあった。逆に、本場アメリカでの「人気ランキング」となっている。
ここでは、使用台数のみのレポートとなる。
順位 | ブランド | 使用台数 | 使用率 |
1 | cervelo | 654 | 22.44% |
2 | TREK | 350 | 12.01% |
3 | FELT | 269 | 9.23% |
4 | SPECIALIZED | 266 | 9.13% |
5 | CANYON | 263 | 9.03% |
6 | QR | 236 | 8.10% |
7 | ARGON18 | 134 | 4.60% |
8 | BMC | 99 | 3.40% |
9 | GIANT(CADEX/Liv) | 87 | 2.99% |
10 | cannondale | 70 | 2.40% |
11 | SCOTT | 64 | 2.20% |
12 | VEMTUM | 41 | 1.41% |
13 | DIMOND | 35 | 1.20% |
14 | ORBEA | 31 | 1.06% |
15 | PINARELLO | 29 | 1.00% |
16 | FUJI | 28 | 0.96% |
17 | ceepo | 18 | 0.62% |
18 | CUBE | 17 | 0.58% |
19 | PARLEE | 15 | 0.51% |
19 | KESTREL | 15 | 0.51% |
21 | DIAMOND BACK | 13 | 0.45% |
22 | LOOK | 12 | 0.41% |
23 | FEZZARI | 10 | 0.34% |
23 | blue | 10 | 0.34% |
25 | BH | 9 | 0.31% |
26 | PREMIER | 8 | 0.27% |
26 | FACTOR | 8 | 0.27% |
28 | wilier | 6 | 0.21% |
28 | GURU | 6 | 0.21% |
28 | COLNAGO | 6 | 0.21% |
31 | KUOTA | 5 | 0.17% |
31 | KUCYCLE | 5 | 0.17% |
33 | RIDLEY | 4 | 0.14% |
33 | RALEIGH | 4 | 0.14% |
33 | FOCUS | 4 | 0.14% |
36 | tririg | 3 | 0.10% |
36 | STORCK | 3 | 0.10% |
36 | RIBBLE | 3 | 0.10% |
36 | MERIDA | 3 | 0.10% |
36 | LITESPEED | 3 | 0.10% |
36 | LAPIERRE | 3 | 0.10% |
36 | GARNEAU | 3 | 0.10% |
36 | BOARDMAN | 3 | 0.10% |
36 | A2 | 3 | 0.10% |
45 | velovie | 2 | 0.07% |
45 | simplon | 2 | 0.07% |
45 | LEMOND | 2 | 0.07% |
45 | JAMIS | 2 | 0.07% |
45 | CABAL | 2 | 0.07% |
45 | BIANCHI | 2 | 0.07% |
45 | AVENGER | 2 | 0.07% |
52 | VOSS | 1 | 0.03% |
52 | 3T | 1 | 0.03% |
52 | TOMASSO | 1 | 0.03% |
52 | TOKEN | 1 | 0.03% |
52 | STRADALLI | 1 | 0.03% |
52 | STEVENS | 1 | 0.03% |
52 | SEROTTA | 1 | 0.03% |
52 | RACE XTRACT | 1 | 0.03% |
52 | PRICE | 1 | 0.03% |
52 | PLANET X | 1 | 0.03% |
52 | O”RKA | 1 | 0.03% |
52 | NO22 | 1 | 0.03% |
52 | NINER | 1 | 0.03% |
52 | METTA | 1 | 0.03% |
52 | MERCURY | 1 | 0.03% |
52 | MASI | 1 | 0.03% |
52 | LYNSKEY | 1 | 0.03% |
52 | KINESIS | 1 | 0.03% |
52 | GUNNAR | 1 | 0.03% |
52 | GENIUS | 1 | 0.03% |
52 | DEROSA | 1 | 0.03% |
52 | DEAN | 1 | 0.03% |
52 | CUCUMA | 1 | 0.03% |
52 | CINELLI | 1 | 0.03% |
52 | BOTTECCHIA | 1 | 0.03% |
52 | AQUILA | 1 | 0.03% |
52 | AIRSTREEEM | 1 | 0.03% |
H.C | 3 | 0.10% | |
ブランド不明 | 12 | 0.41% | |
78 | 合計 | 2914 | 100.00% |
その他のレポート:http://triathlon-geronimo.com/?p=38943
「コナではどうなるのか!?」
IRONMAN WORLD CHAMPIONSHIP 2021 Report
5/7(土)米国ユタ州セントジョージで「IRONMAN WORLD CHAMPIONSHIP 2021」が開催された。
今回、この大会には大きく2つの意味があるだろう。一つはIRONMANトライアスリートの最速を決める伝統ある世界最高峰の開催であること。そして、もう一つは、コロナ禍の中で、2019年で止まっていた同大会の選手権の再開にある。また、フルディスタンスのIRONMANの本格的な再開も含まれるだろう。
前者は、毎年10月のKONAで開催されていた大会で、2018年で40周年となっていた。ロングのトライアスロンとして、最高峰であり、憧れの大会で、出場権を得ることは極めて難関となるステイタスの高い大会だ。そして、後者は、2022年の開催される「2021年の大会」として開催に漕ぎ着けたことにある。本来であれば7か月前の2021年10月に開催予定だったのだが、2022年2月に順延、そして、この5月に更に順延し、無事開催となった。KONAでは2400名を超える多くの選手と観戦者が集まる大会であり、世界各地からも参加となるため、予定通り開催することはできなかった。もちろん、完全にコロナ前に戻ったわけではない。会場、タイミング、運営など、今できるカタチとして今回のIRONMAN世界選手権が開催されたのだ。
毎回ハワイ語で表記されているテーマ、今年は「KUMUKAHI」だった。英訳は「A NEW BIGINNING」としている。KUMUKAHIはハワイ島にある地名で、ハワイ島の最東端であり、ハワイ州全体の最東端でもある場所から、最初に陽が昇る場所とされている。前述したが、このコロナ禍から新たに始めようという意味が込められている。
A NEW BEGINNING
As the sun rises in the east we are reminded of the Hawaiian word kumukahi – ” A New Beginning “, carries us into the Land of Endurance. No matter where we are in the world, each new day provides the possibility for optimism and excitement as we reflect on our past and acknowledge the value of all we have learned. Along our journey we are awakened to na makana (the gift), which inspires hope.(抜粋)
やはり、IRONMANはKONAが聖地だった。
■St.George
会場となったセントジョージは、元々フルのIRONMANが開催されていた場所であり、昨年9月にはIRONMAN70.3世界選手権も行われた場所だ。アメリカとしては、西部に位置するユタ州であり、州の中では南西、ラスベガスも近く、どちらかと言えば西海岸寄りと言える場所だ。砂漠地帯で昼間と夜の寒暖差が大きいが、湿度は低く、天候も安定してる。開催時期は最高気温は真夏で、最低気温は5月の日本より低い。また、良く紹介される赤くそびえ立つ岩が象徴的なセントジョージで、映画のワンシーンを彷彿させるダイナミックなロケーションはまさに「アメリカ西部」という感じだ。そんな地形もあり、コースはアップダウンしかないチャレンジングなコースと風景は「世界選手権」に相応しい舞台と言えるだろう。
■Qualify
今回の世界選手権は2021年としているが、それまでにクウォリファイしていた選手はセントジョージとコナを選択することが出来た。コナを選んだ選手が多かったようだ。コロナ禍でのタイミングもあり、刻々と様々な規制が緩和されていることも、先延ばしが無難と考えた選手が多かった。今回の日本人エントリーは18名で少なかったが、やはり、日本から直行便で行けるコナは移動時間も短く、傾向は偏った。ただ、レース会場としてのセントジョージは世界選手権として申し分のない素晴らしい舞台だった。
■Race Topix
まずは、過去最大のIRONMAN WORLD CHAMPIONSHIP であるということだろう。エントリーは3700名を超えていた。もちろん今回の事情もある。元々ローカルレースを急遽「世界選手権」に格上げとなっていることやロケーションとコロナ禍事情から2/3はアメリカ人であるということだ。その前提を踏まえておく必要はあるが、その規模で世界選手権が開催されたのも事実だ。ファーストアイアンマンからSUB10まで幅広い選手層となるが、絶対数が多いため、トップエイジのバトルも激しかった。
そして、Kristian Blunnenfeltの走りは本物なのだろうか、Daniela Ryfの復活はあるのか、競技としての注目は高かった。すでに結果は周知の通りだが、Blunnenfeltは、昨今の強者とは少し違った勝ち方をしている。「パーフェクト」と言える今回怪我で欠場のJan Frodeno(KONA3勝)は、過去最強にバランスが取れた選手だ。Frodenoは常にトップグループでコントロールできる各種目の総合力が高かったが、Blunnenfeltはスイム、バイクも上位には出ない。もちろん、顔ぶれにより、展開は変わるが、バイクの切れは感じなかった。同時に感じたのはランでの自信が半端ではないということだった。一昔前の「得意技」という戦略で、バイクのビハインド10分は射程距離と想定していたのだろう。そして、ランでの猛追は凄かった。確実に優勝を思わせる力強い走りは誰もがそう思ったことだろう。
Ryfのゴールは「狂喜乱舞」だった。今までクールなイメージが強かったRyfだが、ランでの表情は正に鬼気迫るものがあった。2018年の優勝を最後に勝てていなかった。今回メンバーから見ると力をつけていたLucy Charles-Barclayは怪我で欠場のため、自滅しなければ勝てる「本命」であったことは間違いないが、アイアンマンでは何が起こるか分からない。スイム4位で上がり、その後バイクを1/3走ったところでトップに出た。その後はRyfの世界。もう勝てないのではないか、終わったと、言った人たちにぶつけるように掌を広げ「5勝」アピールした。とても苦しかった2年半を自らの力で打破した瞬間だった。
ちなみに、プロの賞金総額は$350,000で、15位までが対象、優勝者には$125,000(≒¥16,250,000)が支払われる。
■Future
今回、Blunnenfeltは、1年以内にオリンピックとアイアンマンの頂点を極めた。これはトライアスロンの歴史に残る偉業でもある。同時に「両立」できることを証明した。正に今の言葉を使えば「二刀流」であるが、他の選手も簡単に真似ができるわけではないだろう。ただ、可能性があることを示したのだ。昨今のサクセスストーリーとして、オリンピック選手のアイアンマンの活躍が当たり前のものとなった。その点では、Blunnenfeltのようにオリンピック選手が明日のアイアンマンという繋がりが見えてきたことに興奮を憶える。今まで「別世界」だと思われていた2つのトライアスロンは、10代後半から40歳までの20年以上にかけて競われる、選手生命の長い種目となっていくのではないだろうか。
■Bike Count
バイクや機材の動向はどうなっているのだろうか。まずは基本情報としてバイクブランド別の使用率が気になるところだ。2019年まではサーヴェロがその地位を不動のものとして来たが、変化はあったのだろうか。また、単にブランド別ではなく、ディスクブレーキ仕様となった「新型」の台数こそが正に「今の人気」と言える。
また、トップ選手による新型の投入もエキサイティングそのものだ。カデックスのTT(Blunnenfelt)やBMCのSpeedmachine(Nilsson)などは、このセントジョージに合わせ発表となっている。また、RyfやCurrieが使用するフェルトのIAも1年近く前から画像情報はあったが、ようやく現物を確認することが出来た。そして、すでに市販ベースとなっているバイクとしては、新型の中でも新しいトレックSpeedconceptなど、プロからエイジまで多く使用されていた。
この2年間コロナ禍により、レースが中止や減ってしまったため、メーカーとしては開発の先延ばしやデリバリーの遅れがあった。選手側としては、レースに出る機会が減ったり、モチベーションの低下により「機材導入」なども活発だったとは言えない状況があった。ただ、その風潮は脱したと言っても良いだろう。コロナ前と同じとは言えないが、コロナ禍を理由にする段階は終わっていると考えている。ローンチやデリバリーが遅れているメーカーも不利とはなるが、それを大きな原因とすることは違うと思う。(後日GERONIMO COUNTにて)
■Race
今回も熱い闘いが繰り広げられた。ベテランのクレバーな走りと若手の可能性が光った。アイアンマン屈指の難コースで開催された世界選手権は、サバイバルの様相となり、プロ男子の完走率が軒並み低いことに驚かされた。また、アイアンマンは聖地ハワイを基本としていること、10月のKONAはやはり特別なレースであり、アイアンマン70.3とは画している。以下、レースリキャップとなる。
【ROKA – Swim】~ Reservoir ~ 風がなければフラットコース
スイム会場となるのは、セントジョージのメイン会場から東部に位置するサンドホロー湖で車で30分程度離れている。サンドホロー州立公園の中にある貯水池で、風がなければフラットで泳ぎやすいが、水温が15℃程度と低い場合がある。風は昼前後から吹くことが多いようだが、朝から強い風が吹いていることもあり、タイミングによってはスイムにも苦しめられるようだ。
スタートは、6:15のプロ男子スタートから最終は8:06のエイジ女子45-49までの21ウェーブとなり2時間近くかけてのスタートとなる。間隔は一律ではなく、2分から9分までコントロールされている。ちなみにプロの次は、PC/HCとなり、エイジのトップスタートは、男子の40-44となっている。
今回のスイムコンディションはチョッピーな水面で、やや泳ぎづらかったようだ。また、公式には水温17℃となっているのだが、実際にはもっと低いと感じる選手が多かったようだ。
≪Daniel Baekkegardが引っ張ったスイム≫
まず男子はBraden Currieが先頭に出るが、10分程度で下がり、その後はDaniel Baekkegardが最後まで6名のトップグループを先導していた。ただ、最後はSam Laidlowがほぼ同時ながらトップタイムとなっている。優勝のKristian Blunnenfeltは8位でタイムは49:40、これはエイジより遅く、OD選手としては意外とも思えるタイムだが、トップとの差は2分強で、射手距離なのだろう。また、トランジットでは、再び順位が変わり、Baekkegardがトップでバイクスタートを切った。
≪ダントツだったHaley Chura≫
女子は、終始Haley Churaがトップに、Fenella LangridgeとLisa Nordenが続き、3名のトップグループとなるが、Churaは別格の泳ぎを見せ、2位に2分近くの大差をつけフィニッシュしている。優勝のDaniela Ryfは4位でフィニッシュ、54:42で、トップから4分以上、空けられているが、やはり、顔ぶれからは問題のないポジションで終えている。スイムのアドバンテージのまま、Churaがバイクスタートしている。
制限時間:2時間20分
【Bike】~ Hilly ~ キャニオンを見ながら走るダイナミックなアップダウンコース
バイクコースはフィニッシュ地点となるメイン会場を中心に東のスイム会場から北西の山岳コースで「Hilly」と表現されている。スイム会場周辺もアップダウンとなり、全体を通し、ハードなコース設定となる。メイン会場から最も離れた120km地点は最大の難所と言える上りが選手を苦しめる。以前のコース設定ではその坂を2周回となっていたそうだ。セントジョージはアイアンマン屈指の難コースと言えるかもしれない。そして、昼間の気温は35℃を超えることもあるが、唯一湿度の低さに助けられる。
路面状況は、試走時の確認では一部を除き概ね悪くないだろう。ただ、道幅も狭いわけではないが、選手が重なった場合、密集状態となるため、注意が必要となる。バイクコース終盤では「SNOW CANYON」周辺を2周回(MAPの中央)となり、プロとエイジが混在して走るエリアでもある。
今回のコースは、コナのように完全規制ではなく、ハイウェイは片側を使って走行し、それ以外のコースは概ね規制されている。特にスイム会場周辺では厳しく規制されている。バイクのコンディションは、悪くなかったようだ。一部では強い風が吹いていたようだが、時間帯によっても変わってしまう。ただし、遅くスタートした選手ほど風が強くなる傾向があった。計測では風速は5m以下となっていたが、選手によって感じ方が違っていた。また、上りでは、プロでもDHポジションを取らない、取れないコースも多く、特に女子はベースバーを持つ選手が目立っていた。そして、前日から気温が高くなっていて、バイク時から日焼けなどからの疲労が始まっていた。
≪チームのように5選手で逃げた≫
男子は、スタート数分でBraden Currieがトップに出ているが、その後、5名で先頭集団を形成し先行している。ローテーションするようにトップが入れ替わりながら、後続の引き離しに入った。特にCurrieはポジションを大きく変え、集団をコントロールしているようだ。同じニュージーランドのKyle Smithと話しながら走っている。40km付近からハイウェイに入ったが、アップダウンでペースが上がらない。やはりベースバーを持って走っている選手が確認できる。60kmを過ぎてもKristian BlunnenfeltやLionel Sandersの姿を見ることはできない。スイムで先行した5選手でこのまま行ってしまうのだろうか。80kmを過ぎたが変化なし。115km地点トップ通過はFlorian Angertだが、変わらず5名のトップグループとなっている。125km地点の最大の難所でも5名揃って、ほぼ「集団走行」状態。第2集団を引っ張るのは、Cameron Wurf、続いてKristian Hogenhaug、そして、Blunnenfeltの3名で約5分弱のタイム差となっている。バイクの間に追いつけるのだろうか。150km地点でも変化はないが、Blunnenfeltらは20秒以上遅れている。先頭集団も後続選手のランを考えると少しでも離しておきたい。160kmを超えてSnow Canyonに入った。ちなみにSnow Canyonは州立公園のため、車の通行は$15かかってしまう。観光名所でもあり、途中途中にパーキングが設置されている。このロケーションこそが象徴的なセントジョージのバイクコースだが、7~10%の上り坂で、バイク終盤に迎える最後の難所となる。特に後半は9~10%が続き、さすがにトップ選手も身体を起こし、ベースバーを持ち、最後の坂を力走している。そして、Snow Canyonを上り切ると一気にダウンヒルでゴールとなる。結局最後まで5選手で逃げ切ったが10分は離せなかった。Smithを先頭にランスタートとなった。その後、本命のBlunnenfelt含む第2パックがバイクフィニッシュとなった。差は4分18秒。Currieは逃げ切れるのか、Blunnenfeltは追いつけるのか。
≪Ryfの一人旅≫
女子は、スイムトップのHaley Churaでスタートしているが25km程度でLisa Nordenに捕まっている。そして、Daniela Ryf が徐々に追い上げている。40km地点では、Kat Matthewsを先頭にRyf、スイムから先行しているNorden、Skye Moenchの4名がトップグループとなっている。この4名で行くのか、Anne Haugは上がってくるのか、まだまだ分からない。Ryfがトップに出たのは60km地点だが、すぐ後にMatthewsら他の選手も続いている。すでにペースを上げていたRyfは、2位Matthewsに50秒の差をつけて100km地点を通過している。3位Nordenは3分近い遅れとなり、すでにパックは解消、Ryfの独走となっている。125km地点でも変わらずRyfの独走、2位Matthewsは更に離され、2分半のビハインドとなっている。その後もRyfの独走は続き、最後の難所Snow Canyonに入った。すでにSnow Canyonは抜けたが、2位のMatthewsはまだ坂の途中だ。Ryfは、十分なリードを保っている。残りはダウンヒル、7%の坂を50km以上で下って行く。前を見て、下を見て、交互に繰り返しながら独走が続く。後続との差は6分半以上ある。そして、4:37:46、トップでバイクを終え、5度目の優勝を賭けたランをスタートしたのだった。
制限時間:スタート後、10時間30分
【HOKA – Run】~ Hilly ~ 閑静な住宅街を抜けるアップダウンコース
ランコースもタフなアップダウンとなる。まずはランスタート後4km付近までは上り10km付近まで下り、同じコースを折り返す。したがって、6km上り、4km下るコースを2周回するハードなコースでフラットはほとんどない。日陰はほとんどなく、サバイバルの様相となる。ランの本当の力を試される難コースのため、バイク同様に想定したトレーニングが必要になるだろう。
≪ショートを走るかのようなBlunnenfeltのランは誰も止められない≫
男子は、Kyle Smithが先頭でスタートした。ここまで5名で走ってきたが、ここからが勝負だ。陽射しも強くなり、過酷なランとなった。程なくしてBraden Currieが2位に上がっている。ランスタートして15分、前を走るSmithは同じニュージランドの選手だけにやりやすさもやりずらさもあるだろう。いずれにしてももう見えている。ランスタート後22分が過ぎ、ついにCurrieはトップを捕らえた。タッチをして抜いて行く。その差は徐々に広がり、Currieは独走状態に入った。1周目を折り返し、Kristian Blummenfeltが差を縮め始めている。スタート時より1分近く詰まっている。4位まで上がっていたBlunnenfeltは、18km付近で、2位3位を一気に抜き、ついにトップを追いかけることになった。やはりBlunnenfeltのランは速い。ビハインドは3分、残りの距離は半分以上ある。どうなるCurrie。2周目に入ったが、トップはCurrieがキープしている。ただ、Blunnenfeltが更にその差を縮めている。25km地点でのタイム差は1分14秒でロックオン、そして、視界に入っている。その頃、Lionel Sandersも淡々と刻み、4位まで上がって来ていた。そして、23km付近で3位を走るSam Laidlowを捕え、ついに3位となった。27km付近、Blunnenfeltは、Currieの背後に迫っていた。そして、並ぶことなく、一気に抜き去った。何度か後を見て、付いて来れないCurrieを確認している。圧倒的な力を見せつけ、差を広げて行く。30.5km地点で40秒差となっている。3位のSandersとは4:34の差があった。35kmを通過したBlunnenfeltは全く衰えることなく、快走を見せている。もう誰も止めることはできないだろう。2位のCurrieも頑張っているが、ペースは落ちている。Blunnenfeltは37km付近、最後の上りも間も無く終わろうとしている。上りが終わればあと5kmと少し。もうウィニングランと言っても良いだろう。2位Currieとの差は4分に広がっていた。そして、Sandersの猛追は続いている。Currieとの差は1:30程度になっている。Currieは逃げ切れるのか。残り3.5km Currieは2位だ。Blunnenfeltはゴール手前の折り返しに入っていた。時計を気にしている。コースレコードを確認しているのだろう。Blunnenfeltが1kmを切った頃、もう一つのドラマが始まっていた。SandersがCurrieに迫っていた。すでに野獣Sandersの目には「獲物」が見えている。残り300m、Blunnenfeltは人差し指を立て、自分が1番であることをアピールした。笑顔となり、メインの花道より手前から沿道の観客にハイタッチをしながら最後のランを味わっている。両手を広げ、ガッツポーズをし、観客にハイタッチ、そして、また、後ろを向いてガッツポーズ。至福の瞬間を楽しんでいるBlunnenfelt。フィニッシュラインは両手でテープを掴み上げ、雄叫び、その後、テープを投げつけるパフォーマンスに沸いた。
7:49:16 初IRONMAN WORLD CHAMPIONSHIPをコースレコードで飾った。Blunnenfelt、そして、ノルウェートライアスロンの強さを目の当たりにした。
その後、ラスト500m、最後のドラマがあった。Sandersは、Currieを完全に捕えていた。ゴールのオーロラビジョンでも映し出され、2位と3位のバトルに釘付けとなっていた。ここまでこのレースを引っ張ってきたCurrieと4月の70.3OCEANSIDEで見せたサイドバイサイドの競り合いを制したSandersの姿が思い出された。ラスト400mでSandersは2位に上がった。何度も振り返るが、Currieにはもう力が残っていなかった。大逆転のSanders、惜しくも3位となったCurrieに惜しみのない拍手が感動のゴールエリアとなった。
≪拮抗するランもバイクのアドバンテージでRyfが決めた≫
女子は、Ryfの圧勝となるのか、約7分遅れでスタートしたMatthewsはどこまで迫ることができるのか。そして、前回19年の覇者Haugの猛追なるか。まだまだ分からない。約15分遅れでHaugがランスタートした。15分差は厳しいが、まだ諦めていない。Ryfの独走は続く。9km付近ではバイザーを前後逆に被り直し、気合を入れたのだろうか。2位Matthewsとの差を8分以上に広げているが、4位のHaugはその差を縮め始めている。その後もRyfの独走は続き間も無く2周目に入る。エイドでは水を多く飲み、身体にもかけている。厳しい暑さの中での乱は、Ryfも辛い。エイドではRyfに水を渡すことが出来た女性ボランティアが喜んでいる。多くの人たちに支えられる中、熱いレースが続いている。女子2位を走るMatthewsもRyfとほぼ同じペースで快走を見せているが、差が縮まらない。Ryfは26km付近を走っているがペースは安定している。その後も状況は変わらずRyfはトップをキープ、間も無くラスト5km地点を通過する。Haugも猛追で3位まで上がっているが、トップとの差は大きい。Ryfは5kmを切った。2位Matthewsのビハインドは8分以上、Ryfもウィニングランに入った。最後の折り返しに入った。笑顔も見える。そして、ハイタッチをしながら最後のコーナーを曲がり、花道に入った。ガッツポーズと雄叫びを何度も繰り返しながら、テープを切った。
8:34:59 復活のゴール、そして、5回目の優勝となった。苦しかった2年7ヶ月からの喜びが爆発した。普段は見せない「狂喜乱舞」に会場は大歓声に包まれた。
制限時間:スタート後、17時間
2021年を締め括ることが出来た。今回のようにブランクが空き、変則的なレースとなり、各選手も調整が大変だったと思う。ただ、怪我での欠場も目立ったが、スタートラインに立つことが出来なければ何も言えない。最後に結果を出した選手こそが本物だ。Blummenfeltは凄い選手だった。
そして、アイアンマンは競技時間が長く、本当に「命」を削っているかのようだ。最高の走りを見せてくれた選手たちに敬意表したい。
長かったトンネルを抜けたIRONMAN WORLD CHAMPIONSHIP。やはり、最高の舞台だった。スピードアイアンマンとなったこのレースは、今後どのように進化していくのだろう。また、すでに4ヶ月後に迫った「2022」にどう繋がって行くのだろう。最前線でその事実を伝え続けたい。
2022年10月6日と8日コナで2日に分けてアイアンマンが開催されるが、これも初の試みとなるレース形式なのだ。運営もハードとなる開催に疑問も上がっているが、上手くいくことを祈念したい。
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■Weather
天候 晴れ / 平均最高気温 29.0℃ / 湿度15% / 平均水温17℃
風速 約1~5m / 風向 南東、北、東 ※IRONMAN発表による
■Result(プロ)
- 男子 総エントリー数 / スタート数 47名 / 41名 完走者数 / 率 27名 / 65.9%
- 女子 総エントリー数 / スタート数 37名 / 27名 完走者数 / 率 22名 / 81.5%
※全てのデータ:https://www.ironman.com/im-world-championship-2021-results
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その他のレポート:http://triathlon-geronimo.com/?p=38943
「2021年が決着した!」