第43回全日本トライアスロン皆生大会 Recap Report

女子優勝は昨年に続き、大阪の宇治選手となった。

7/20(日)第43回全日本トライアスロン皆生大会(皆生トライアスロン協会主催「スポーツ振興くじ助成事業)が開催された。

皆生大会は、1981年に始まった国内発祥の大会で、その歴史こそが日本の歴史とも言える大会だ。皆生の特徴としては、「短めのロング」というイメージを持っているかもしれない。大きくは2つだろうか、「灼熱」と「バイクコース」を口にする選手が多いだろう。

スイムは宮古島と同じ3kmだが、波や潮流によってはハードな3kmとなることもある。バイクは、佐渡やアイアンマンなどに比べ、40~50km短いが、アップダウンの連続、気が抜けないテクニカルコースは「佐渡とどちらがきつい?」との声が聞こえてくるほど。そして、そんなバイクコースで中々余力を残せずランに入るが、そこは「灼熱」の世界となっているサバイバルなレースなのだ。

今回の出場選手は978名(個人の部)がエントリー、内92名が女性選手となっている。また、最年少は20歳、最年長は81歳と幅広い選手層となっていることも特徴と言える。地域性は42都府県からのエントリーとなっているが、大阪122名、兵庫89名、鳥取83名など、「関西系」の大会でもある。

そして、43回の歴史において初めて「Bタイプ」が新設された。狙いは「全員が勝利者を目指す」皆生大会として、距離を短くし、まずは完走に対する難易度を下げることで、新たな挑戦者を迎えるために設定された。

尚、今回よりTriathlon Japanの2025NTTトライアスロンエイジグループ・ナショナルチャンピオンシップシリーズロング第9戦としてポイント対象レースとなったことで、実質のロング(宮古、長崎、皆生、佐渡、北海道)をメインに出場している選手にとっては朗報となる。

レース結果は、Aタイプが75.6%の完走率、Bタイプが66.6%となっている。Aタイプ男子は丸尾公貞選手(愛媛県・39歳)初優勝、女子は宇治公子選手(大阪府・43歳)の連覇。新設のBタイプ男子は原田和範選手(滋賀県・33歳)、女子は小川千恵子選手(大阪府・53歳)が初代の覇者となった。

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以下、リキャップとなる。7回目の取材となったが、変わらず、古き良き、トライアスロンの原風景が広がっていた。

■Course & Distance

穏やかな日本海スイム
アップダウンが激しく、テクニカルなバイク
灼熱に耐えるラン

【Swim】

コースは、23年から採用されているワンループで泳ぐ3km。皆生温泉の海水浴場に沿って泳ぎ、中間地点で一度上陸、チェック。折り返しスタート地点に戻る分かりやすいコース。また、スタートはビーチからの一斉スタートだが、比較的ゆっくりと海に入り、順次泳ぎ始めるようなスタートとなる。そして、スタート直後の第1コーナー付近ではやはり密集状態となりやすいため、ポジション取りも重要となる。

今回は、波はなく、潮流の影響もない、泳ぎやすいコンディションだったため、タイムも概ねイメージ通りにアップできているのではないだろうか。ただ、昨年は波、潮流の影響により、後方の選手では15~20分程度遅くなっている。タイムだけでなく、心身ともにダメージがあることを常に想定し、十分なスイムトレーニングを積んでおかなければいけない。

【Bike】

コースは、皆生らしさであり、名物とも言えるアップダウン&テクニカルとなる140km。他のロングよりは短いが舐めてはいけない。フラットもあるのだが、「上っているか、下っているかしかない」と口にする選手が多い。そんな強烈なイメージが残るということなのだ。また、試走をするかしないかは大きい。下りのスピードを殺さず、走り続けるためには「先」がみえていなければいけない。その点では地元や関西の選手は強い。

序盤50kmの目標は大山。大山を上ると言っても頂上まで行くわけではなく、裾野を走るだけなのだが、そこが長く1~3%程度の坂が続くため、休めない。ガーデンプレイスを過ぎ、大山の橋は応援ポイントのため元気に走りたいところだが、ここですでに明暗が分かれている。まだ序盤となる50km程度で、余裕のある選手は「DHポジション」で颯爽と走っているが、表情が険しくなってきている選手も少なくない。

中盤40kmの目標は折り返し地点となる中山温泉。そこに行くまでに「ジェットコースター往路」となる。イメージは直線で下りと上りのセットとなる。下りで脚を止めていては上れない。いや、上れるが下りの勢いを活かせず、皆生攻略とは言えない。更に直線ばかりではなく、コーナーも多いテクニカルには慎重さが重要となる。

終盤50kmの目標はもちろん、前半の「ジェットコースター復路」のクリアだろう。やはり、まず、アップダウンとテクニカルのエリアを終えたい。ここで選手間の走りには大きく差が出てくる。コース、疲労、そして、灼熱が襲いかかるからだ。真上から降り注ぐ太陽は容赦ない。

今回は、天候に恵まれ、下りやコーナーも攻める走りができていただろう。もちろん暑さも厳しくなってきていたが、大雨よりは安心して走れる。比較的速かった選手は、終盤の日野川沿いで例年向かい風となるのだが、追い風に助けられたと選手から聞いている。

【Run】

コースは、概ねフラットのスピードコースとなる40km(実測41km)。序盤、終盤は街中を走り、中盤で海岸エリアとなる弓ヶ浜サイクリングコースを走る。

序盤9kmの目標は弓ヶ浜の海。弓ヶ浜サイクリングロードまでは街中を走るが、途中陸橋、地下道を通る。

中盤24kmの目標は竹内工業団地の境夢みなとターミナルの折返しポイント。まずは海沿いのサイクリングロードを走るが、路面のコンディションが良いため、走りやすい。ただ、日陰は皆無。耐え忍びながら、ひたすら我慢の走りをする。大山を背にして走る風光明媚なポイントであり、空港も近いため、飛行機が低い位置で飛んでいるが、それを確認する余裕はない。

終盤8kmの目標はもちろんゴールのどらドラパーク米子陸上競技場。ここが最後の試練となる。フラットではあるが、地下道と陸橋2つがある。また、それまで走っていたサイクリングロードから街中の歩道に入ると、微妙な段差もキツく感じて来ていたのではないだろうか。

今回は、曇ったり、涼しい風が吹く時間もあった。「焼け石に水」だったかもしれないが。

■Weather

皆生の象徴、大山がクッキリと望める快晴

7回目の取材となったが、ご覧の通りの天候だった。皆生と言えば灼熱か、大雨が降るか、今年はどちらだろうと覚悟しながら現地入りをしている。やはり選手の安全性、特にバイク走行時を考えると灼熱でも晴れた方が良い。

予定通り、開催が決定される5時の気温は26.9℃。当日の最高気温はお昼前に36℃を記録している。12:30には南寄りの風から北寄りの風に明確に切り替わっていた。日野川沿いも走る時間帯によって恩恵を受けられた選手もいたわけだ。

そして、暑さ感を増幅する湿度だが低かった。一日中ではないが、5時に70%を記録後、下り始め、9時には60%を切り、お昼には50%を切っていた。選手に実感があったかどうか別だが、良いコンディションだったということだ。ただ、15時頃から再び上がり始め、17:30には70%を超え、遅い選手にとっては暑かったと感じたことだろう。大会終了時には80%となっていた。

個人的な見解だが、今回の暑さは5段階言えば4だったと感じている。過去6回の取材の中ではもっと暑く、特に湿度が高い時もあった。つまり、最悪は避けられたということ。

※気象情報:鳥取地方気象台米子地区 2025年7月20日10分毎

■Age & Finisher(Aタイプ)

今回初めて調査してみた。宮古島では良くチェックしていたが、皆生はどうなのだろうか。国内全体としても「高齢化」が進む中で、皆生に特性はあるのだろうか。

50代が中心である現状は変わらない。宮古では50-54がトップシェアであり、皆生も同様なことが分かる。ただ宮古は23%であり、4ポイント高い。前後のシェアはさほど差はないが50-54だけが多い傾向だった。

「完走率」はあらためて気になるキーワードだ。「完走は当たり前」「完走しなければ意味がない」など、簡単に言えなくなって来ている。現在、国内で開催されている5ロングで年間3500~4000人程度の延べ完走者が存在するが、基本的には完走するもの、となって来ている。

今回は、40代までの完走率が高いが、50代を超えてくると完走率が落ちている。ただ、50代の完走率は低めとなっていても、参加者数が多いため、「完走者数」自体は大きく占めている。50代は、高齢だから完走率が悪いとは言い切れない。それぞれ「取組み方」の違いが表れているのではないだろうか。つまり勢いだけでは難しいということ。

限られた時間の中で、計画性や効率性などの見直しによって、より安全に楽しく生涯スポーツとして継続できるのではないだろうか。国内では50代が中心となるスポーツだ。仮に30代、40代が増えても、50代が減ることはないだろう。上手く進めて行きたいところだ。

■局面の一つ

Side by side

並んで走る丸尾選手と山岸選手。

竹内工業団地内の最初の給水所の手前の光景だ。距離にして18km程度地点だろう。まさに「ガチ」と言った感じだった。真横にビタっと並んだ状態で走っている姿に興奮を覚えた。まだ半分以上残っている中でいつどのように仕掛けるのだろうか。

この直後、中野緑地給水所で、山岸選手が前に出た。その差は見る見るうちに広がり、30秒差をつけていた。26km程度の地点では2分差まで広がっていたため、そのまま行くかと思われた。

その後、ゴール地点に戻り選手を待つことに。

ゴール地点でレース状況が随時入って来ていたのだが、「#10丸尾選手がトップ」に会場はどよめいていた。逆転したのか?、そして、「間もなく丸尾選手がゴールします」とアナウンスされた。次に入って来たのは高橋選手だった。昨年覇者の高橋選手は得意のランで追い上げ18分遅れのランスタートから見事に追いついたのだった。

高橋選手は2ヶ月前に交通事故で大怪我をしていた。そんな中での2位は大健闘だった。本調子だったらどうなっていたのだろうか。

■原点

同伴ゴールができる大会。

他の大会は禁止になったり、一緒にテープを切れなかったりだが、皆生は思う存分のゴールが楽しめる。しかもカメラ目線でもあるのだが、「近い」距離で目の当たりにするのだ。各選手それぞれのゴールがあり、一日中走り回ったご褒美を味わうことができる瞬間だ。

仲間や家族、特にお子さんとのゴールは必見だろう。周りの人々も感動のお裾分けにあやかれるということ。

他の大会もそれぞれ事情があると思うが、最後の最後くらいは選手が好きなようにやらせてあげられると良いのだが。皆生はそれができる。

■大切にしていること

#1の藤原選手(61)は過去最多の8回優勝を誇るも、今回はDNF
3度優勝の谷選手(58)は総合11位の快走

今年もレジェンドの二人は特別招待選手として参戦。

まさにこのような選手こそ「レジェンド」と呼ぶに相応しいだろう。藤原選手は「サラリーマン三羽烏」と言われた名選手で、フルタイムワーカーでありながらもこの皆生8勝など周知の活躍をして来た。藤原選手と言えば「研究家」でもあり独自のメソッドで走ってきた異色の選手でもある。

谷選手は1993年のアイアンマンワールドチャンプオンシップでプロ12位入賞(当時は15位までが入賞)するなど、輝かしい経歴となる。日本のプロロングの世界は、2000年コナで谷、宮塚、田村の3選手がTOP20に入って以来、止まっていると言っても良いだろう。そんな最高潮の時代に活躍していた選手だ。

皆生大会はこのような選手たちを大切にしている。常にゼッケン1を用意していることも皆生流なのだ。

■Volunteer

今年も約2000名のボランティアに支えられ開催している。

現在、コロナ以降、ボランティア確保が難しいと各大会でも聞く。ボランティアの数も多ければ良いということではないと思うが、理屈抜きに盛り上がりを感じる。ボランティアは大会規模にもよるが、1000名超えれば多いと思う。選手数と同じくらいであれば申し分ないだろう。2000名ということは選手1名に対し、2名のボランティアがつく計算になるということだ。

もちろん、集まっているだけではなく、慣れている。エイドステーションには名産のスイカがあって選手を喜ばせているが、それだけではない。「OS-1」があったり、氷を切らさないなど、選手への配慮もレベルが高い体制となっている。

また、やはり「慣れ」は言うまでもなく重要で、長年続いている大会のボランティアには安心を感じる。友人、家族、部活、企業など地元の関係性の良さが成すということなのだろう。

そして、皆生は子供たちが多くボランティアに参加している。これが重要なのだ。「大きくなったら鉄人になる」という憧れの面もあるのだ。これは佐渡にも見られる傾向だが、あらためて、地元を始めとした多くの関係者に支えられていることを感じる。宿泊していたホテルの仲居さんもボランティアをされていて「もう来年の準備を始めますよ」と冗談を交えて地元の一体感を感じさせてくれた。

■Race Result

2025鉄人皆生覇者
ゴール直後のインタービューでは冷静に振り返っていた丸尾選手

皆生が終わった。

Aタイプ男子は丸尾選手の初優勝、女子は宇治選手の連覇となった。丸尾選手は一度2位に下がってからの逆転優勝。宇治選手は昨年に続き、涼しかった昨年のタイムを大幅に更新し優勝となった。

丸尾選手が静かに語り始めた。

MC:まずは今の気持ちを

「優勝できるとは思っていませんでした。」

MC:情報が錯綜していて

「エイドを飛ばした時に先頭の山岸さんがそのエイドに入っていたということで逆転したみたいです」

MC:高橋選手についての印象は?

「高橋さんは前に出られることはなかったのですが、後ろで追い上げているなということは感じていたので一生懸命逃げました。」

MC:昨年は4位、今年はどうだった?

「昨年はランの最初で潰れてしまったので、今年はランも最初から余裕を持ってイーブンペースで行こうと決めていたのが良かったと思います。」

MC:今日のレース振り返って、印象的だったポイントは?

「去年は雨だったので、今年は快晴で灼熱の皆生味わえて、その中で優勝できてことは良かったと思います。」

MC:今後の目標は?

「トライアスロンをできる限り楽しんで行きたいと思います。」

MC:みなさまにメッセージを

「凄い楽しい大会をさせてもらって本当に感謝しています。沿道のみなさんも一生懸命サポートしてくれたので、この暑い中最後まで走り切れたのだと思います。ありがとうございました。」

今年は、穏やかスイムとなったことが良かった。上位選手の中でもスイムが得意ではない選手もいて、昨年より大幅にタイムアップしていた。あとは暑さの戦いだったと思うが、これは得て不得手で大きく差が出ていたように思う。特に一般選手は完走がかかっているため、必死の形相で力を振り絞っていた。

来年に向け準備を始めよう。

【第43回全日本トライアスロン皆生大会】

《日時》2025年7月20日(日)7:00~21:30

《選手数》※個人の部

Aタイプ

  • 応募総数 921名(競争率1.12倍)
  • 総エントリー数 / 最終出走者数 / 出走率 842 / 816名 / 96.9%
  • 完走者数 / 完走率 617名 / 75.6%

Bタイプ

  • 応募総数 154名(競争率0.77倍)
  • 総エントリー数 / 最終出走者数 / 出走率 136 / 123名 / 90.4%
  • 完走者数 / 完走率 82名 / 66.6%

《順位》※個人の部

Aタイプ 男子総合

  • 1位 丸尾 公貞   No.10    8:30:47(S46:39/B4:13:49/R3:30:19)
  • 2位 高橋 正俊   No.4     8:34:36(S43:41/B4:35:11/R3:13:21)
  • 3位 山岸 穂高   No.5    8:35:54(S46:57/B4:14:56/R3:34:01)

Aタイプ 女子総合

  • 1位 宇治 公子   No.7    9:08:44(S48:55/B4:46:55/R3:32:54)
  • 2位 岡本 春香   No.9    9:21:17(S59:18/B4:41:21/R3:40:38)
  • 3位 高橋 佳那   No.8 9:42:12(S1:01:05/B5:02:09/R3:38:58)

Bタイプ 男子総合

  • 1位 原田 和範   No.2033    6:23:28(S48:54/B3:33:56/R2:00:38)
  • 2位 大倉 啓悟   No.2079    6:41:03(S56:10/B3:33:22/R2:11:31)
  • 3位 石田 涼       No.2042    7:05:03(S44:50/B3:28:13/R2:52:00)

Bタイプ 女子総合

  • 1位 小川 千恵子   No.2049    8:14:11(S1:00:37/B4:30:59/R2:42:35)
  • 2位 水野 美津子   No.2003    9:11:11(S59:42/B4:57:39/R3:13:50)
  • 3位 志野 治美    No.2072 9:26:28(S1:12:10/B4:43:23/R3:30:55)

公式記録:https://www.kaike-triathlon.com/?p=5822

◾️Triathlon GERONIMO

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「激しく、厳しいが、楽しく、優しい皆生。」

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Triathlon “ MONO ” Journalist     Nobutaka Otsuka