IRONMAN WORLD CHAMPIONSHIP 2021 Report

5/7(土)米国ユタ州セントジョージで「IRONMAN WORLD CHAMPIONSHIP 2021」が開催された。

今回、この大会には大きく2つの意味があるだろう。一つはIRONMANトライアスリートの最速を決める伝統ある世界最高峰の開催であること。そして、もう一つは、コロナ禍の中で、2019年で止まっていた同大会の選手権の再開にある。また、フルディスタンスのIRONMANの本格的な再開も含まれるだろう。

前者は、毎年10月のKONAで開催されていた大会で、2018年で40周年となっていた。ロングのトライアスロンとして、最高峰であり、憧れの大会で、出場権を得ることは極めて難関となるステイタスの高い大会だ。そして、後者は、2022年の開催される「2021年の大会」として開催に漕ぎ着けたことにある。本来であれば7か月前の2021年10月に開催予定だったのだが、2022年2月に順延、そして、この5月に更に順延し、無事開催となった。KONAでは2400名を超える多くの選手と観戦者が集まる大会であり、世界各地からも参加となるため、予定通り開催することはできなかった。もちろん、完全にコロナ前に戻ったわけではない。会場、タイミング、運営など、今できるカタチとして今回のIRONMAN世界選手権が開催されたのだ。

毎回ハワイ語で表記されているテーマ、今年は「KUMUKAHI」だった。英訳は「A NEW BIGINNING」としている。KUMUKAHIはハワイ島にある地名で、ハワイ島の最東端であり、ハワイ州全体の最東端でもある場所から、最初に陽が昇る場所とされている。前述したが、このコロナ禍から新たに始めようという意味が込められている。

A NEW BEGINNING

As the sun rises in the east we are reminded of the Hawaiian word kumukahi – ” A New Beginning “, carries us into the Land of Endurance. No matter where we are in the world, each new day provides the possibility for optimism and excitement as we reflect on our past and acknowledge the value of all we have learned. Along our journey we are awakened to na makana (the gift), which inspires hope.(抜粋)

やはり、IRONMANはKONAが聖地だった。

■St.George

会場となったセントジョージは、元々フルのIRONMANが開催されていた場所であり、昨年9月にはIRONMAN70.3世界選手権も行われた場所だ。アメリカとしては、西部に位置するユタ州であり、州の中では南西、ラスベガスも近く、どちらかと言えば西海岸寄りと言える場所だ。砂漠地帯で昼間と夜の寒暖差が大きいが、湿度は低く、天候も安定してる。開催時期は最高気温は真夏で、最低気温は5月の日本より低い。また、良く紹介される赤くそびえ立つ岩が象徴的なセントジョージで、映画のワンシーンを彷彿させるダイナミックなロケーションはまさに「アメリカ西部」という感じだ。そんな地形もあり、コースはアップダウンしかないチャレンジングなコースと風景は「世界選手権」に相応しい舞台と言えるだろう。

■Qualify

今回の世界選手権は2021年としているが、それまでにクウォリファイしていた選手はセントジョージとコナを選択することが出来た。コナを選んだ選手が多かったようだ。コロナ禍でのタイミングもあり、刻々と様々な規制が緩和されていることも、先延ばしが無難と考えた選手が多かった。今回の日本人エントリーは18名で少なかったが、やはり、日本から直行便で行けるコナは移動時間も短く、傾向は偏った。ただ、レース会場としてのセントジョージは世界選手権として申し分のない素晴らしい舞台だった。

■Race Topix

まずは、過去最大のIRONMAN WORLD CHAMPIONSHIP であるということだろう。エントリーは3700名を超えていた。もちろん今回の事情もある。元々ローカルレースを急遽「世界選手権」に格上げとなっていることやロケーションとコロナ禍事情から2/3はアメリカ人であるということだ。その前提を踏まえておく必要はあるが、その規模で世界選手権が開催されたのも事実だ。ファーストアイアンマンからSUB10まで幅広い選手層となるが、絶対数が多いため、トップエイジのバトルも激しかった。

そして、Kristian Blunnenfeltの走りは本物なのだろうか、Daniela Ryfの復活はあるのか、競技としての注目は高かった。すでに結果は周知の通りだが、Blunnenfeltは、昨今の強者とは少し違った勝ち方をしている。「パーフェクト」と言える今回怪我で欠場のJan Frodeno(KONA3勝)は、過去最強にバランスが取れた選手だ。Frodenoは常にトップグループでコントロールできる各種目の総合力が高かったが、Blunnenfeltはスイム、バイクも上位には出ない。もちろん、顔ぶれにより、展開は変わるが、バイクの切れは感じなかった。同時に感じたのはランでの自信が半端ではないということだった。一昔前の「得意技」という戦略で、バイクのビハインド10分は射程距離と想定していたのだろう。そして、ランでの猛追は凄かった。確実に優勝を思わせる力強い走りは誰もがそう思ったことだろう。

Ryfのゴールは「狂喜乱舞」だった。今までクールなイメージが強かったRyfだが、ランでの表情は正に鬼気迫るものがあった。2018年の優勝を最後に勝てていなかった。今回メンバーから見ると力をつけていたLucy Charles-Barclayは怪我で欠場のため、自滅しなければ勝てる「本命」であったことは間違いないが、アイアンマンでは何が起こるか分からない。スイム4位で上がり、その後バイクを1/3走ったところでトップに出た。その後はRyfの世界。もう勝てないのではないか、終わったと、言った人たちにぶつけるように掌を広げ「5勝」アピールした。とても苦しかった2年半を自らの力で打破した瞬間だった。

ちなみに、プロの賞金総額は$350,000で、15位までが対象、優勝者には$125,000(≒¥16,250,000)が支払われる。

■Future

今回、Blunnenfeltは、1年以内にオリンピックとアイアンマンの頂点を極めた。これはトライアスロンの歴史に残る偉業でもある。同時に「両立」できることを証明した。正に今の言葉を使えば「二刀流」であるが、他の選手も簡単に真似ができるわけではないだろう。ただ、可能性があることを示したのだ。昨今のサクセスストーリーとして、オリンピック選手のアイアンマンの活躍が当たり前のものとなった。その点では、Blunnenfeltのようにオリンピック選手が明日のアイアンマンという繋がりが見えてきたことに興奮を憶える。今まで「別世界」だと思われていた2つのトライアスロンは、10代後半から40歳までの20年以上にかけて競われる、選手生命の長い種目となっていくのではないだろうか。

■Bike Count

バイクや機材の動向はどうなっているのだろうか。まずは基本情報としてバイクブランド別の使用率が気になるところだ。2019年まではサーヴェロがその地位を不動のものとして来たが、変化はあったのだろうか。また、単にブランド別ではなく、ディスクブレーキ仕様となった「新型」の台数こそが正に「今の人気」と言える。

また、トップ選手による新型の投入もエキサイティングそのものだ。カデックスのTT(Blunnenfelt)やBMCのSpeedmachine(Nilsson)などは、このセントジョージに合わせ発表となっている。また、RyfやCurrieが使用するフェルトのIAも1年近く前から画像情報はあったが、ようやく現物を確認することが出来た。そして、すでに市販ベースとなっているバイクとしては、新型の中でも新しいトレックSpeedconceptなど、プロからエイジまで多く使用されていた。

この2年間コロナ禍により、レースが中止や減ってしまったため、メーカーとしては開発の先延ばしやデリバリーの遅れがあった。選手側としては、レースに出る機会が減ったり、モチベーションの低下により「機材導入」なども活発だったとは言えない状況があった。ただ、その風潮は脱したと言っても良いだろう。コロナ前と同じとは言えないが、コロナ禍を理由にする段階は終わっていると考えている。ローンチやデリバリーが遅れているメーカーも不利とはなるが、それを大きな原因とすることは違うと思う。(後日GERONIMO COUNTにて)

■Race

今回も熱い闘いが繰り広げられた。ベテランのクレバーな走りと若手の可能性が光った。アイアンマン屈指の難コースで開催された世界選手権は、サバイバルの様相となり、プロ男子の完走率が軒並み低いことに驚かされた。また、アイアンマンは聖地ハワイを基本としていること、10月のKONAはやはり特別なレースであり、アイアンマン70.3とは画している。以下、レースリキャップとなる。

【ROKA – Swim】~ Reservoir ~ 風がなければフラットコース

スイム会場となるのは、セントジョージのメイン会場から東部に位置するサンドホロー湖で車で30分程度離れている。サンドホロー州立公園の中にある貯水池で、風がなければフラットで泳ぎやすいが、水温が15℃程度と低い場合がある。風は昼前後から吹くことが多いようだが、朝から強い風が吹いていることもあり、タイミングによってはスイムにも苦しめられるようだ。

スタートは、6:15のプロ男子スタートから最終は8:06のエイジ女子45-49までの21ウェーブとなり2時間近くかけてのスタートとなる。間隔は一律ではなく、2分から9分までコントロールされている。ちなみにプロの次は、PC/HCとなり、エイジのトップスタートは、男子の40-44となっている。

今回のスイムコンディションはチョッピーな水面で、やや泳ぎづらかったようだ。また、公式には水温17℃となっているのだが、実際にはもっと低いと感じる選手が多かったようだ。

≪Daniel Baekkegardが引っ張ったスイム≫

まず男子はBraden Currieが先頭に出るが、10分程度で下がり、その後はDaniel Baekkegardが最後まで6名のトップグループを先導していた。ただ、最後はSam Laidlowがほぼ同時ながらトップタイムとなっている。優勝のKristian Blunnenfeltは8位でタイムは49:40、これはエイジより遅く、OD選手としては意外とも思えるタイムだが、トップとの差は2分強で、射手距離なのだろう。また、トランジットでは、再び順位が変わり、Baekkegardがトップでバイクスタートを切った。

≪ダントツだったHaley Chura≫

女子は、終始Haley Churaがトップに、Fenella LangridgeとLisa Nordenが続き、3名のトップグループとなるが、Churaは別格の泳ぎを見せ、2位に2分近くの大差をつけフィニッシュしている。優勝のDaniela Ryfは4位でフィニッシュ、54:42で、トップから4分以上、空けられているが、やはり、顔ぶれからは問題のないポジションで終えている。スイムのアドバンテージのまま、Churaがバイクスタートしている。

制限時間:2時間20分

女王の復活なるか
ノルウェートライアスロンの強さとは
23年引退、有終の美を飾れるか

中央にいる濃いグリーンのキャップがKristian Blummenfelt。

【Bike】~ Hilly ~ キャニオンを見ながら走るダイナミックなアップダウンコース

バイクコースはフィニッシュ地点となるメイン会場を中心に東のスイム会場から北西の山岳コースで「Hilly」と表現されている。スイム会場周辺もアップダウンとなり、全体を通し、ハードなコース設定となる。メイン会場から最も離れた120km地点は最大の難所と言える上りが選手を苦しめる。以前のコース設定ではその坂を2周回となっていたそうだ。セントジョージはアイアンマン屈指の難コースと言えるかもしれない。そして、昼間の気温は35℃を超えることもあるが、唯一湿度の低さに助けられる。

路面状況は、試走時の確認では一部を除き概ね悪くないだろう。ただ、道幅も狭いわけではないが、選手が重なった場合、密集状態となるため、注意が必要となる。バイクコース終盤では「SNOW CANYON」周辺を2周回(MAPの中央)となり、プロとエイジが混在して走るエリアでもある。

今回のコースは、コナのように完全規制ではなく、ハイウェイは片側を使って走行し、それ以外のコースは概ね規制されている。特にスイム会場周辺では厳しく規制されている。バイクのコンディションは、悪くなかったようだ。一部では強い風が吹いていたようだが、時間帯によっても変わってしまう。ただし、遅くスタートした選手ほど風が強くなる傾向があった。計測では風速は5m以下となっていたが、選手によって感じ方が違っていた。また、上りでは、プロでもDHポジションを取らない、取れないコースも多く、特に女子はベースバーを持つ選手が目立っていた。そして、前日から気温が高くなっていて、バイク時から日焼けなどからの疲労が始まっていた。

≪チームのように5選手で逃げた≫

男子は、スタート数分でBraden Currieがトップに出ているが、その後、5名で先頭集団を形成し先行している。ローテーションするようにトップが入れ替わりながら、後続の引き離しに入った。特にCurrieはポジションを大きく変え、集団をコントロールしているようだ。同じニュージーランドのKyle Smithと話しながら走っている。40km付近からハイウェイに入ったが、アップダウンでペースが上がらない。やはりベースバーを持って走っている選手が確認できる。60kmを過ぎてもKristian BlunnenfeltやLionel Sandersの姿を見ることはできない。スイムで先行した5選手でこのまま行ってしまうのだろうか。80kmを過ぎたが変化なし。115km地点トップ通過はFlorian Angertだが、変わらず5名のトップグループとなっている。125km地点の最大の難所でも5名揃って、ほぼ「集団走行」状態。第2集団を引っ張るのは、Cameron Wurf、続いてKristian Hogenhaug、そして、Blunnenfeltの3名で約5分弱のタイム差となっている。バイクの間に追いつけるのだろうか。150km地点でも変化はないが、Blunnenfeltらは20秒以上遅れている。先頭集団も後続選手のランを考えると少しでも離しておきたい。160kmを超えてSnow Canyonに入った。ちなみにSnow Canyonは州立公園のため、車の通行は$15かかってしまう。観光名所でもあり、途中途中にパーキングが設置されている。このロケーションこそが象徴的なセントジョージのバイクコースだが、7~10%の上り坂で、バイク終盤に迎える最後の難所となる。特に後半は9~10%が続き、さすがにトップ選手も身体を起こし、ベースバーを持ち、最後の坂を力走している。そして、Snow Canyonを上り切ると一気にダウンヒルでゴールとなる。結局最後まで5選手で逃げ切ったが10分は離せなかった。Smithを先頭にランスタートとなった。その後、本命のBlunnenfelt含む第2パックがバイクフィニッシュとなった。差は4分18秒。Currieは逃げ切れるのか、Blunnenfeltは追いつけるのか。

≪Ryfの一人旅≫

女子は、スイムトップのHaley Churaでスタートしているが25km程度でLisa Nordenに捕まっている。そして、Daniela Ryf が徐々に追い上げている。40km地点では、Kat Matthewsを先頭にRyf、スイムから先行しているNorden、Skye Moenchの4名がトップグループとなっている。この4名で行くのか、Anne Haugは上がってくるのか、まだまだ分からない。Ryfがトップに出たのは60km地点だが、すぐ後にMatthewsら他の選手も続いている。すでにペースを上げていたRyfは、2位Matthewsに50秒の差をつけて100km地点を通過している。3位Nordenは3分近い遅れとなり、すでにパックは解消、Ryfの独走となっている。125km地点でも変わらずRyfの独走、2位Matthewsは更に離され、2分半のビハインドとなっている。その後もRyfの独走は続き、最後の難所Snow Canyonに入った。すでにSnow Canyonは抜けたが、2位のMatthewsはまだ坂の途中だ。Ryfは、十分なリードを保っている。残りはダウンヒル、7%の坂を50km以上で下って行く。前を見て、下を見て、交互に繰り返しながら独走が続く。後続との差は6分半以上ある。そして、4:37:46、トップでバイクを終え、5度目の優勝を賭けたランをスタートしたのだった。

制限時間:スタート後、10時間30分

僅か1秒ながらスイムはトップタイムのSam Laidlow
スイムでは積極的に引いたDaniel Baekkegard
先頭集団をコントロールし、その存在感が大きかったBraden Currie
各種目で安定した走りを見せるFlorian Angert

話題のCADEX TTに乗る最注目選手Kristian Blummenfelt
KONAバイクレコードを持つ最強チームENEOSのCameron Wurf
2014年王者の復活なるかSebastian Kienle
猛追するその目はタフさNo.1の人気選手Lionel Sanders
BMCプロトタイプTTに乗るPatrik Nilsson

安定感のあるKat Matthews
Daniela Ryfも快調に走っているが、無理にペースは上げない

前回19年覇者、Anne Haugはラン勝負

スイムトップのHaley Churaは遅れ出している

【HOKA – Run】~ Hilly ~ 閑静な住宅街を抜けるアップダウンコース

ランコースもタフなアップダウンとなる。まずはランスタート後4km付近までは上り10km付近まで下り、同じコースを折り返す。したがって、6km上り、4km下るコースを2周回するハードなコースでフラットはほとんどない。日陰はほとんどなく、サバイバルの様相となる。ランの本当の力を試される難コースのため、バイク同様に想定したトレーニングが必要になるだろう。

≪ショートを走るかのようなBlunnenfeltのランは誰も止められない≫

男子は、Kyle Smithが先頭でスタートした。ここまで5名で走ってきたが、ここからが勝負だ。陽射しも強くなり、過酷なランとなった。程なくしてBraden Currieが2位に上がっている。ランスタートして15分、前を走るSmithは同じニュージランドの選手だけにやりやすさもやりずらさもあるだろう。いずれにしてももう見えている。ランスタート後22分が過ぎ、ついにCurrieはトップを捕らえた。タッチをして抜いて行く。その差は徐々に広がり、Currieは独走状態に入った。1周目を折り返し、Kristian Blummenfeltが差を縮め始めている。スタート時より1分近く詰まっている。4位まで上がっていたBlunnenfeltは、18km付近で、2位3位を一気に抜き、ついにトップを追いかけることになった。やはりBlunnenfeltのランは速い。ビハインドは3分、残りの距離は半分以上ある。どうなるCurrie。2周目に入ったが、トップはCurrieがキープしている。ただ、Blunnenfeltが更にその差を縮めている。25km地点でのタイム差は1分14秒でロックオン、そして、視界に入っている。その頃、Lionel Sandersも淡々と刻み、4位まで上がって来ていた。そして、23km付近で3位を走るSam Laidlowを捕え、ついに3位となった。27km付近、Blunnenfeltは、Currieの背後に迫っていた。そして、並ぶことなく、一気に抜き去った。何度か後を見て、付いて来れないCurrieを確認している。圧倒的な力を見せつけ、差を広げて行く。30.5km地点で40秒差となっている。3位のSandersとは4:34の差があった。35kmを通過したBlunnenfeltは全く衰えることなく、快走を見せている。もう誰も止めることはできないだろう。2位のCurrieも頑張っているが、ペースは落ちている。Blunnenfeltは37km付近、最後の上りも間も無く終わろうとしている。上りが終わればあと5kmと少し。もうウィニングランと言っても良いだろう。2位Currieとの差は4分に広がっていた。そして、Sandersの猛追は続いている。Currieとの差は1:30程度になっている。Currieは逃げ切れるのか。残り3.5km Currieは2位だ。Blunnenfeltはゴール手前の折り返しに入っていた。時計を気にしている。コースレコードを確認しているのだろう。Blunnenfeltが1kmを切った頃、もう一つのドラマが始まっていた。SandersがCurrieに迫っていた。すでに野獣Sandersの目には「獲物」が見えている。残り300m、Blunnenfeltは人差し指を立て、自分が1番であることをアピールした。笑顔となり、メインの花道より手前から沿道の観客にハイタッチをしながら最後のランを味わっている。両手を広げ、ガッツポーズをし、観客にハイタッチ、そして、また、後ろを向いてガッツポーズ。至福の瞬間を楽しんでいるBlunnenfelt。フィニッシュラインは両手でテープを掴み上げ、雄叫び、その後、テープを投げつけるパフォーマンスに沸いた。

7:49:16 初IRONMAN WORLD CHAMPIONSHIPをコースレコードで飾った。Blunnenfelt、そして、ノルウェートライアスロンの強さを目の当たりにした。

その後、ラスト500m、最後のドラマがあった。Sandersは、Currieを完全に捕えていた。ゴールのオーロラビジョンでも映し出され、2位と3位のバトルに釘付けとなっていた。ここまでこのレースを引っ張ってきたCurrieと4月の70.3OCEANSIDEで見せたサイドバイサイドの競り合いを制したSandersの姿が思い出された。ラスト400mでSandersは2位に上がった。何度も振り返るが、Currieにはもう力が残っていなかった。大逆転のSanders、惜しくも3位となったCurrieに惜しみのない拍手が感動のゴールエリアとなった。

≪拮抗するランもバイクのアドバンテージでRyfが決めた≫

女子は、Ryfの圧勝となるのか、約7分遅れでスタートしたMatthewsはどこまで迫ることができるのか。そして、前回19年の覇者Haugの猛追なるか。まだまだ分からない。約15分遅れでHaugがランスタートした。15分差は厳しいが、まだ諦めていない。Ryfの独走は続く。9km付近ではバイザーを前後逆に被り直し、気合を入れたのだろうか。2位Matthewsとの差を8分以上に広げているが、4位のHaugはその差を縮め始めている。その後もRyfの独走は続き間も無く2周目に入る。エイドでは水を多く飲み、身体にもかけている。厳しい暑さの中での乱は、Ryfも辛い。エイドではRyfに水を渡すことが出来た女性ボランティアが喜んでいる。多くの人たちに支えられる中、熱いレースが続いている。女子2位を走るMatthewsもRyfとほぼ同じペースで快走を見せているが、差が縮まらない。Ryfは26km付近を走っているがペースは安定している。その後も状況は変わらずRyfはトップをキープ、間も無くラスト5km地点を通過する。Haugも猛追で3位まで上がっているが、トップとの差は大きい。Ryfは5kmを切った。2位Matthewsのビハインドは8分以上、Ryfもウィニングランに入った。最後の折り返しに入った。笑顔も見える。そして、ハイタッチをしながら最後のコーナーを曲がり、花道に入った。ガッツポーズと雄叫びを何度も繰り返しながら、テープを切った。

8:34:59 復活のゴール、そして、5回目の優勝となった。苦しかった2年7ヶ月からの喜びが爆発した。普段は見せない「狂喜乱舞」に会場は大歓声に包まれた。

制限時間:スタート後、17時間

Braden Currieがトップをキープしている
レースを引っ張って来たBraden Currie
Kristian Blummenfeltが迫っている
Kristian Blummenfeltは、まるでショートを走るかのよう

野獣Lionel Sanders の存在感は大きかった

逃げるBraden Currie

追うKristian Blummenfelt
安定した走りを見せるDaniela Ryf
Daniela Ryfは確信した
Kat Matthewsのブレないラン

初の世界選手権で優勝を飾ったKristian Blummenfelt

Sandersが泣いた!
大健闘のCurrieは出し切った。
SandersがCurrieを迎える。

3年7ヶ月ぶりの優勝は5回目の快挙!

スタンド裏で撮ったワンショット。メダルを持って一般選手のように笑顔で応えてくれた。まだ27歳と若いだけにこれからの活躍が楽しみなBlummenfeltチャンプだ。

2021年を締め括ることが出来た。今回のようにブランクが空き、変則的なレースとなり、各選手も調整が大変だったと思う。ただ、怪我での欠場も目立ったが、スタートラインに立つことが出来なければ何も言えない。最後に結果を出した選手こそが本物だ。Blummenfeltは凄い選手だった。

そして、アイアンマンは競技時間が長く、本当に「命」を削っているかのようだ。最高の走りを見せてくれた選手たちに敬意表したい。

長かったトンネルを抜けたIRONMAN WORLD CHAMPIONSHIP。やはり、最高の舞台だった。スピードアイアンマンとなったこのレースは、今後どのように進化していくのだろう。また、すでに4ヶ月後に迫った「2022」にどう繋がって行くのだろう。最前線でその事実を伝え続けたい。

2022年10月6日と8日コナで2日に分けてアイアンマンが開催されるが、これも初の試みとなるレース形式なのだ。運営もハードとなる開催に疑問も上がっているが、上手くいくことを祈念したい。

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■Weather

天候 晴れ / 平均最高気温 29.0℃ / 湿度15% / 平均水温17℃

風速 約1~5m / 風向 南東、北、東 ※IRONMAN発表による

■Result(プロ)

  • 男子 総エントリー数 / スタート数 47名 / 41名 完走者数 / 率 27名 / 65.9%
  • 女子 総エントリー数 / スタート数 37名 / 27名 完走者数 / 率 22名 / 81.5%
Top five professional men’s results:
PLACE ATHLETE SWIM BIKE RUN FINISH
1 Kristian Blummenfelt (NOR)  49:40 04:18:42 02:38:01 07:49:16
2 Lionel Sanders (CAN)  52:07 04:16:13 02:42:25 07:54:03
3 Braden Currie (NZL)  47:37 04:16:31 02:47:11 07:54:19
4 Chris Leiferman (USA)  52:02 04:18:34 02:44:25 07:57:51
5 Florian Angert (DEU)  47:40 04:16:14 02:52:43 07:59:35
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Top five professional women’s results:
PLACE ATHLETE SWIM BIKE RUN FINISH
1 Daniela Ryf (CHE)  54:42 4:37:46 2:59:36 08:34:59
2 Kat Matthews (GBR)  54:48 4:44:40 3:00:57 08:43:49
3 Anne Haug (DEU)  54:47 4:52:53 2:56:00 08:47:03
4 Skye Moench (USA)  54:44 4:53:13 3:04:21 08:55:21
5 Ruth Astle (GBR)  59:23 4:50:45 3:06:35 09:00:09
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※全てのデータ:https://www.ironman.com/im-world-championship-2021-results

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その他のレポート:http://triathlon-geronimo.com/?p=38943

Photo by Jeff Richards(St. George News | Cedar City News | Canyon Media) Thanks

「2021年が決着した!」

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Triathlon “ MONO ” Journalist     Nobutaka Otsuka