今年のKONAが終わった。
チャンピオンとなったのはイギリスのルーシー・チャールズ – バークレイだった。まさに悲願の優勝だった。速かった。女子のコースレコード(8:24:31)を叩き出し、堂々の優勝を飾った。
2017年、彗星のごとく現れたイギリスのマーメイド、ルーシーは、いきなり2位となり、新星誕生となった。ただ、その後の出場は全て2位となり優勝することができなかった。女王ダニエラ・リフという大きな背中が立ちはだかり「万年2位」に甘んじていたのだった。また、昨年は股関節の怪我にも見舞われ思うような走りができていなかった。そして、今回リフも出場、役者が揃った中での優勝は一入だったはずだ。
レースは先行逃げ切りだ。男子でも難しい50分を切るスイムスペシャリスト。そして、バイクが強かった。課題のランとアキレス腱の怪我からバイクでどこまで離せるが勝負だった。コナデビューながら優勝候補でもあったアメリカのテイラー・ニブが2位まで迫る中でも終盤はニブのビハインドを広げ、ランに移った。
その後は、耐えるランだった。ニブの猛追も予想されたが、ランスペシャリスト、ドイツのアンネ・ハウグがスーパーな走りを見せた。2019年優勝のハウグのランは天下一品、男子のパトリック・ランゲに例えられる別格の走力を持っている。ランスタート時のタイム差は15分程度あったが、長いランではどうなるか分からない。ハウグはコースレコード(2:48:23)となるランで追い上げた。
そして、3分差まで迫られたが、見事に逃げ切り優勝となったのだ。ゴールテープを掴んだ瞬間こそ覇気を見せたが、イメージしていた彼女らしい「狂喜乱舞」とはならなかった。持てる力を出し切り、疲れ切った表情で、苦闘だったことを物語っていた。表彰台に上るまでもびっこを引き、痛々しい姿だった。
プロの世界で頂点に立つこととは。。。
本当に素晴らしい走りだった。
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2023年のKONAが始まる。
スイムは予想通り、ルーシーの一人旅となった。ルーシーは一気に飛び出し、後続からの視界から消えてしまうほどリードをしていた。第2パックはローレン・ブランドン、ハレイ・チュラら、スイムスペシャリストたち、第3パックにリフ、ニブ、ハウグらのライバルがひしめき合っていた。
一人先行することはいつも通りだが、今回の気合は違った。第2パックのビハインドは大きく広がり、スイムながらタイム差が気になり出した。スイムでは勝負に大きく影響しないアイアンマンだが、2位ハウグとは5分近いタイム差となり、スイム先行の意味が大きかったケースとなる。
そんな中でもスイムの速い「現役ショート系」のニブは最大のマーク対象だった。ニブは、スイムを第2パックの最後尾で終え、バイクの強いショート系選手としてどのような走りを見せてくれるのか。今回のレースでまず「最初の見せ場」となることを予想していた。ルーシーのスイム先行は確実、スイムも速いニブがどの時点で追いつくのか。
ニブの速さはデータでも出ている。70km弱走った時点で平均パワーは308W、パワーウェイトレシオは脅威の5.0となっている。平均時速は40~41km程度で走り続けていた。ルーシーのパワー比は4.7で、ニブに次いでいる。もはや「男子並み」という表現で良いものか、女子のバイクスピードの高速化にも著しいものがある。
ニブは、バイクを2:16遅れの7番手でスタートし、猛追となった。圧倒的なスピード差を見せ、前の選手たちを抜いて行く。若きモンスターは可能性しかなかった。順調に追い上げ、20km地点では2位まで上がったが、終盤ではそのペースが落ち、ビハインドが広がってしまった。猛追はここまでか、少し予想とは違い、ルーシーは逃げ切ったのだ。
もう一人の優勝候補、女王リフは中盤で3位まで浮上したが、精彩を欠き、順位を落として行った。
残すはランとなった。ルーシーは、2位ニブに4分近い差をつけてスタート。ただ、このタイムはどうにでもなる可能性が高かった。ルーシーは万年2位を抜け出せるのか、はたまたニブのKONAデビューウィンとなるのか。どちらにしてもエキサイティングなランシーンとなった。サイドバイサイドがイメージされ第2の見せ場となるかと思われた。
予想外となったのは、ニブが落ち始めたことだった。後続のハウグ、フィリップからも抜かれ4位に下がった。ただ、後続のランが速かったのだ。ハウグのランの速さは周知のこと、圧倒的なスピードで追い上げていた。それはルーシーも想定内であったため「逃げ切り」の険しさが切実となり、ここで「第2の見せ場」が始まった。タイム差は十分だったが、ハウグの持ちタイムからすれば侮れない、いかに壮絶なランとなったことか。
結果は前述の通り、ランレコードとなったハウグの激走は追いつかず、見事に終始トップ(1979年第2回以来)をキープしたルーシーが初めての優勝を果たした。
ルーシー・チャールズ – バークレイはプロ5度目(2015年エイジチャンピオン)にしてついに世界チャンピオンを座を掴んだ。それもリフの前で成し遂げられたことは、この上ない喜びだったであろう。タイムもレコードであり、文句なしの走りだ。このタイムは男子で言えばSUB8に匹敵するタイムだけに「完全優勝」と言えるだろう。
今までスイムを武器に出てきた選手が世界チャンピオンになるケースはない。そのため、バイク序盤を走っていた選手は入れ替わってしまう。スイム出身の選手にも大きな期待をもたらしたレースであり、その意味でも歴史的な勝利と言えるだろう。今のルーシーは全てが強い。
Top five professional women’s results:
SWIM | BIKE | RUN | FINISH | ||
1. Lucy Charles-Barclay | GBR | 00:49:36 | 04:32:29 | 02:57:37 | 08:24:31 |
2. Anne Haug | DEU | 00:54:10 | 04:40:23 | 02:48:23 | 08:27:33 |
3. Laura Philipp | DEU | 00:56:49 | 04:35:52 | 02:55:24 | 08:32:55 |
4. Taylor Knibb | USA | 00:51:16 | 04:34:00 | 03:05:13 | 08:35:56 |
5. Daniela Ryf | CHE | 00:54:11 | 04:38:34 | 03:02:11 | 08:40:34 |
Age group champion:
Division | Last Name | First Name | Country | Time |
F18-24 | Warfel | Ava | USA | 9:47:27 |
F25-29 | Deruaz | Maëlle | FRA | 9:14:12 |
F30-34 | Besperát | Barbora | CZE | 9:19:52 |
F35-39 | Murray | Vanessa | NZL | 9:34:27 |
F40-44 | Richtrova | Jana | CZE | 9:38:51 |
F45-49 | Jones Lasley | Jessica | USA | 9:57:28 |
F50-54 | Daenzer | Sandra | CHE | 10:19:29 |
F55-59 | Enslin | Michelle | ZAF | 10:40:06 |
F60-64 | Kay-Ness | Donna | USA | 10:57:10 |
F65-69 | Daggett | Judy | USA | 12:22:53 |
F70-74 | Lestrange | Missy | USA | 14:08:00 |
注目のモンスター、テイラー・ニブ。今回不発に終わったが、今一度ターゲットを明確にすれば、確実に勝てる選手だろう。ショートのスピードとパワーを持ち、バイクも最高レベルに速い。勝てないわけがないということだ。今後の動向が最も気になる選手と言えるだろう。
ランではウエアのトップを脱ぎ、走っていたのが印象的だった。今回はKONAの暑さも課題となったことだろう。エイドステーションでは歩きも入っていたが、暑さやスタミナなど「最終確認」となったのではないだろうか。今から来年のニースが楽しみな選手だ。
立役者と言えば、2019年覇者のアンネ・ハウグだろう。ルーシーの大会レコードもハウグの追い上げあってこそのタイムだ。今回のレース展開を見事に盛り上げてくれた。役者を演じているわけではないが、この筋書きのないドラマに興奮させられた。そして、ランのコースレコードを出したこともハウグらしい快挙と言えるだろう。
上の写真はサイドバイサイドとはなっているが、並んだのは一瞬で、一気に抜き去っている。抜かれた時にハウグを見たニブ、ランラップ17分差を感じたのだろうか。ハウグのランは必見とも言えるスピード感だ。このランがあれば、もう一度優勝を狙える40歳だ。
女子選手だけの一日。全体では2097名がスタート、2039名が完走。史上最高の完走率は驚異の97.2%となった。
Triathlon “ MONO ” Journalist Nobutaka Otsuka