第42回全日本トライアスロン皆生大会 Race Recap

女子優勝の宇治選手

7/14(日)第42回全日本トライアスロン皆生大会(皆生トライアスロン協会主催「スポーツ振興くじ助成事業)が開催された。

皆生大会は国内で開催されている5つのロングトライアスロンの一つであり、国内発祥の大会。出場の選考方法は、他の大会では抽選や先着により決まるが「書類選考」による実力重視の数少ない大会でもある。

スイム3kmは日本海のため運が悪ければ荒れることもある。バイクは140kmという距離は、ロングとしては短いがアップダウンのテクニカルコースは申し分ないハードな設定。ランでは皆生らしさと言われる「灼熱」の中を40km走るサバイバルレースなのだ。

ただ、今回最大の話題となったのが、一日雨となり暑く無かったことだ。過去5回の取材では4回晴れていたが、昨年より10℃以上低かったことは選手への負担を大きく減らしてくれた。もちろん、時折土砂降りとなったため、バイクでの落車も発生し、難しいバイクとなった。

レース結果は、男子が高橋正俊選手(和歌山県・31歳)、女子が宇治公子選手(大阪府・42歳)で、共に初優勝となっている。

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以下、リキャップとなる。今年は涼しかったが、変わらず良い大会だった。

■Course & Distance

荒れたスイム
大雨のバイク
灼熱のないラン

スイムコースは、昨年同様に皆生温泉海岸をワンループで泳ぐ3km。海岸に沿って泳ぎ、中間地点で一度上陸、スタート地点に戻るコースだ。また、今回は従来通りの一斉スタートとはなったのだが、フローティングではなく、ビーチスタートとなった。

そして、大きな問題となったのが「潮流」だった。例年とは逆方向だったのだ。事前のアナウンスでは例年通りの右から左で、往路は楽で、復路は時間がかかるイメージだった。ところが、逆だった上に一斉のビーチスタートとなったため、最初のコーナーで「大渋滞」となった。当然バトルも発生したが、更に波の影響も強く、スイム上級の選手も大きく遅れが出ていた。

概ね、上級で5~10分程度の遅れ、遅い選手で20分近いロスタイムとなっていた。「潮流」についてはあらゆる状況を想定してしておく必要があるだろう。

バイクコースは、従来通りの名物コース「大山&ジェットコースター」となる140kmだ。アップダウンの厳しいことは変わらずだが、更に今回のマイナス条件として雨が強いことだ。当然、平均的な速度は落ちているはずだ。ただ、さすが「皆生の鉄人たち」だ。下りのスピードが速い。例年大山の橋で取材しているが、スピード感は晴れている時と変わらないのではないだろうか。十分な走り込みを感じる瞬間だった。

ランコースは、序盤、終盤は街中を走り、中盤で海岸エリアを走るコースで、全体的には、概ねフラットのスピードコースでもある40km。途中には序盤で歩道橋や地下道、終盤で歩道橋もある。ランの頃になると雨も弱まり、かなり走りやすい状況に見える。灼熱はなかったことで大きく明暗を分けた選手もいたのではないだろうか。

あと、やはりランコースは1km程度長いとの声が上がっている。終盤の歩道橋を渡った時点で「あと2km」と表示されているが、「まだ2kmあるのか」と訴えている選手が多い。

■Weather

大雨の大山

雨だった。

6回目の取材となったが、激しい雨に見舞われた。過去にも雨天はあったが、さほどの雨量ではなく、概ね晴れのイメージが強い皆生だ。天候は選べるわけではないので運となるわけだが、やはり大雨まで想定すれば概ね晴れを望むだろう。

もちろん晴れれば「灼熱」となるため、それはそれで厳しいレースとなる。今回はその「皆生らしさ」がないという声も聞いたが、同じコースを走るのでも今回は10℃以上低く、選手にとっては「楽」な感覚はあったはずだ。

開催が決定される5時の気温は25.1℃。その後、一番高くなったのは14時から16時半で、それでも26.9℃止まり。それまでの高温に慣れた身体にとっては確実に涼しい。バイクでの落車を注意すればこんな皆生も悪くない。ちなみに昨年は14時半頃に36.7℃を記録している。

暑さが無かった分、危険な豪雨が時折選手を見舞う。トップが大山を走る頃には雨も最高に強くなっていた。

レース後には「もし、いつものように暑かったら完走できたかな」「涼しくて助かった」と言っている選手は少なくない。

※気象情報:鳥取地方気象台米子地区 2027年7月14日10分毎

■熱中症特別警戒アラートと暑さ対策

使用されなかったアイスバス

今回の最大のネックとなっていたのは「熱中症 “特別” 警戒アラート」だ。

皆生の名物と言えば「灼熱」。国内発祥の大会は距離、コースのみならず、暑さとの戦いになる過酷なレースが「皆生らしさ」と言われる所以だ。終わってみれば「これぞ皆生」と自他ともに称賛されるタフな環境が皆生完走の満足度を高めていたかもしれない。

ただ、もうそんなことは言ってられなくなった。異常気象と言われて久しく、異常が通常となってしまった昨今、気温は上がり続け、ついに環境省は「熱中症 “特別” 警戒アラート」の運用を4月から開始した。

前日14時に発表されるのだが、もし発表となった場合、皆生大会では15時の開会式で米子市長が「中止宣言」をすることになっていた。現市長のお話は聞きやすく、心のこもった挨拶が定評だが、中止の場合はどんなお話を予定していたのだろうか。

開催となっても灼熱は変わりないため、今回初の導入となったのがランコース5か所に設置された「アイスバス」だった。実際は気温が低かったため、使用する選手は確認できていない。

■もう一つの展開

魅せたダントツバイクの篠崎選手

レースを盛り上げてくれたのは篠崎選手のバイクだった。

「3時間52分21秒」という驚異的な速さでバイクフィニッシュしている。このタイムは過去の140kmで最速となっている。バイクの距離は何度か変更となっているが、2015年以降の140km(1995~2003年も同距離)は参加人数も現在と同じ規模のため、2015年から昨年まで(コロナ禍や短かった2022年を除く)で見ている。概ね過去は4時間12分~18分であり(2019年に4時間28秒)、サブ4となった速さは群を抜いていることになる。

篠崎選手のバイクは周知のパフォーマンスではあるが、期待に応え「見せ場」を作ってくれた。悪天候の中、落車にも見舞われ、打撲、出血もあったようだが、その存在感を強く印象付けた走りだった。

■原点

家族や仲間とのゴールシーンはいつ見ても良い

同伴ゴールは皆生の象徴であり、ハワイのアイアンマンのマニュアルを元に開催、発祥となった時からの原点の姿だ。

皆生に出る選手のレベルは高い。練習はきっちりとやっている印象だ。事実バイクを見ていてもあのテクニカルなコースでスピードが速い。徹底した走り込みがなければあの走りはできない。

そんな「競技志向」の高い皆生大会ではあるが、ゴールをする時の表情は初めてトライアスロンを完走した時のように喜び、家族や仲間と満面の笑みでテープを切るのだ。

レース中の険しい表情とゴールの優しい表情。そのギャップが特に大きく感じる大会だ。

■Legend

最多8回優勝のゼッケン1の藤原選手(60)
3回優勝の谷選手(57)総合19位

皆生には「走るレジェンド」がいる。

凄い時代で活躍してきたレジェンドたちは今も走り続けている。そして、走りも年齢を疑ってしまう。長く走り続けられる「強い身体」を持った鉄人には驚かされる。これも「皆生らしさ」の一つなのだ。

皆生大会はこのようなレジェンドたちを大切にしている。ゼッケン1を用意していることが、これも皆生なのだ。

■Volunteer

ボランティアも皆生の名物

各地の大会でもボランティア確保が難しいと聞くが、皆生はボランティアの多いことでも有名な大会なのだ。それだけ地元の理解と協力がある大会と言っても良いだろう。

そして、感心させられるのが、ボランティアの子どもたちだ。よく声が出ていて連携ができている。しっかりと打ち合わせて、臨んでいることが分かる。そんな子どもたちに助けられた選手は少なくないだろう。

PS.今年もエイドステーションには「OS-1」があった。身体への吸収性の高さは走っていても違和感なく飲める「魔法のドリンク」だ。皆生では10年以上前から準備し、主にラン中の非常時に使用されていたが、昨今の猛暑対策として昨年からバイク時も用意されている。

■Race Result

最後の花道を家族と一緒に
2024鉄人皆生チャンピオン
優勝インタービューで爽やかに熱い想いを語る高橋選手

皆生が終わった。

高橋選手、宇治選手、男女ともに初優勝となった。高橋選手はサブスリーまであと5秒という圧倒的なランの強さを見せ見事優勝となった。宇治選手は2位、3位が続いていただけに悲願の優勝とも言えるだろう。

高橋選手の「やったぞー!」の第一声からインタビューは始まった。

「3番以内を狙っていたので、まさか優勝まで行けるとは思っていませんでした。これがロングの戦い方なのかなと。自分のペースを刻んでいれば自分の番が回ってくるというのか。」

「スイムはトップで上がれました。バイクはいつも頑張り過ぎてしまうところがあるので、今回4回目として、今までの経験を活かして自分のペースを刻むことにしました。順位は下げましたが、この半年間徹底的にバイクを強化してきたので、終わった後、かなり元気な状態で、これはランで絶対イケるぞと言う自信はありました。」

「ランスタート時はトップと30分差がありましたが、あまり頑張るより自分のレースペースを刻んで走り、気づいたらトップになっていました。去年が凄く悔しい結果で、バイク中に熱中症になったり、バイクトラブルがあったり思うような結果が出なかったので嬉しいです。」

全体的にはスイムのリタイヤが気になった。それほど厳しい状況だったのか、選手レベルの問題なのか。来年以降の想定にしてほしい。バイクは雨天時を含めた「慣れとテクニック」が要求された状況だった。実走とその経験を増やし臨む必要があるコースだ。ランは、天候により厳しさが大きく変わる。今回は涼しかったが、基本は「灼熱皆生」だ。その想定をし、十分な走り込みができたかどうか、明暗を分ける大会であることは変わらない。

【第42回全日本トライアスロン皆生大会】

《日時》2024年7月14日(日)7:00~21:30

《参加選手》※個人の部

応募総数 1074名(競争率1.14倍)

総エントリー数 / 最終出走者数 / 出走率 971 / 930名 / 95.78%

完走者数 / 完走率 754名 / 81.07%

《総合男子》

1位 高橋 正俊   No.006    8:08:45(S44:53/B4:23:48/R3:00:04)
2位 山岸 穂高   No151     8:12:27(S52:59/B4:06:07/R3:13:21)
3位 篠崎 友       No.253    8:19:50(S47:58/B3:52:21/R3:39:31)

《総合女子》

1位 宇治 公子   No.050    9:22:45(S53:13/B4:50:58/R3:38:34)
2位 高橋 佳那   No.049    9:37:31(S1:05:42/B5:01:56/R3:29:53)
3位 岡本 春香   No.008 9:53:39(S1:11:40/B4:55:59/R3:46:00)

全ての記録:https://www.kaike-triathlon.com/wp-content/uploads/2024/07/result_01.pdf

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「たまには涼しい皆生も悪くない。」

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Triathlon “ MONO ” Journalist     Nobutaka Otsuka