Triathlon LUMINA No.51
P81~83 Mare Ingenii Tri BIKE CHRONICLE
「これから先のトライアスロンバイクについて語ろう。」
このクロニクルも最終回となった。後編は、どのような点が、問題であり、開発されていないのか、「声なき声」を考えてみた。
大前提として、トライアスロン人口の増加により、ファントライアスロンとして楽しむ人からアイアンマンを10時間で走り切れるレベルまで、幅広く各層が厚くなって来ていることが挙げられる。そんな中で、何が必要なのだろうか。トライアスロンバイクの歴史は25年程度、ロードバイクにおいては100年以上、もちろん見方によれば、完成しているのだが、より良いモノ造りを期待したい。まず、トライアスロンバイクもロードバイク同様に「各グレード」必要となっているだろう。ロードバイクでは、大きくは3つのグレードが存在している。次に、ジオメトリーではないだろうか。特にトライアスロンバイクは、ポジションの「個人差」が大きく、対応が必要となっているのだ。そして、現実的な課題として、レースコースへの対応として、トライアスロンバイクなのか、エアロロードなのか、はたまた、どちらでもない違うバイクの可能性はあるのか。
各課題を考えてみよう。まず、グレードに関してだが、現在ロードバイクは、ビギナー向けとして、重量は軽くはないが、振動吸収性の高いカーボンを使用し、快適性を高めているモデル。フラッグシップは、快適性よりも、軽量性や加速性などを重視しているモデル。そして、それらの中間的なグレードのモデルなど大きく3つに分けることができる。先述の通り、幅広い競技者層となった現在のトライアスロンにおいて、バイクグレードのバリエーションは、必要不可欠だ。特に、「エイジ向け」のトライアスロンバイクの開発は急務だと思う。現在であれば、キャノンデールのスライスなどが、快適性をアピールしている。過去は、初代アイアンマンバイクだったケストレル500sciなど、実は、過去にも優秀なバイクはあった。ただ、当時とは少し事情も違い、現在、トライアスロンバイクは、エアロロードのきっかけを作り、各メーカーの技術の結晶とした「コンセプト」でもあるのだ。そのため、軽量性や加速性など、競技性でのアピールが強く、所謂「イイモノ」になってしまっている。ただ、振り返りではなく、現在のユーザーへ、対応したバイクの開発をする中で、重要なキーワードは、「快適性」だ。小柄なアジア人女性が使用した時にも極めて乗り心地の良いバイクが生まれてくることを望み、それらはこれから高まるものと予想している。
次に、ジオメトリーだが、海外の大手ブランドが中心であり、人気となっている中で、トライアスロンバイクは、ロードバイクを遥かに凌ぐポジションの「シビアさ」が存在する。これは、「DHポジション」という、言い方を変えれば「ピッタリポジション」であり、少し悪く言えば、「窮屈」なポジションなのだ。胴長短足とその逆であったり、同じ骨格でも心肺機能、筋力、柔軟性により、ポジションは変わる。また、実力が付き、レベルが上がることで、ポジションも変わる。とにかく、ポジションは、「生き物」であり、常に変わる可能性がある。例えば、試乗のときも、ポジションを完全に合わせることはできないが、ほぼマイポジションだった場合は良い。ただ、そうでない場合や小さいサイズなどに乗ってしまった場合、明らかにそのフィーリングは悪い。もっとも重要となる「直進安定性」などを「良く」感じることはできないだろう。トライアスロンの「ポジション出し」とは、サドルとDHバーのパッドの位置関係を決めることにあるが、そのためには、トップ長のバリエーションであったり、ヘッド長の考え方、そして、最終的には、DHバーが合えば良いと考えると、そのDHバー側からの対応もあるだろう。すでに、BMCのTM01は、Mサイズにトップ長が2種類存在する。ただ、その差が40mmはやや大きいため、1サイズに2トップ長、差は、15~20mm程度があると良いだろう。仮にS,M,Lサイズあれば、合計で6サイズのバリエーションとなる。
そして、コースについてだが、これはやっかいな問題である。今年のアイアンマンジャパンではトライアスロンバイクとロードバイクの比率が半々だったが、そのようなコースでは、どちらを選ぶかというよりは、オールラウンドに使用できるバイクがほしい。その答えとして、エアロロードが存在するのだろうか。いや、あくまでもジオメトリーは、ロードバイクであり、エアロダイナミクスにおいては良いが、ベストではない。更に進化して、エアロロードとトライアスロンバイクの中間になるような、トライアスロンバイク寄りのエアロロードが出てくれば良い。両立できない理由は後述にも出てくるが、ハンドル高やシートアングルが全く違うことが、そのバイクの性格を分けてしまっているためだ。したがって、そこが「可変」できるシステムなどが出来れば良いのだ。ハンドルのブルホーンバーは、上方にライズされて、「握り」もドロップ形状。サドル位置は、すでに20年前に存在していた「シフター」を進化させるなど。本格的にその完全オールラウンドトライアスロンバイクの誕生を期待したい。
トライアスロンにおいても大きく関係し、相互に影響を与えることになる「エアロロード」の歴史を振り返ってみた。そもそも今の「エアロロード」というものが、注目され始めたのは、2011年のスペシャライズドVENGE、スコットFOILのデビューが、それに当たるだろう。ただ、その前からロードのエアロダイナミクスに注力していたブランドがあった。ご存知「サーベロ」がそうなのだ。2002年のアルミエアロの「ソロイストチーム」に始まり、2006年カーボンの「ソロイストチームカーボン」、翌2007年にリリースされた「ソロイストチームカーボンSL」で、第1次エアロロードは完成された。そして、2009年から、S3を始めとする「Sシリーズ」に継投されたのだ。「S」とは「SOLOIST」の頭文字から来ている。更にその前、90年後半からアルミトライアスロンの延長として、アルミエアロロードをリリースしているメーカーがあった。98年のGT EDGE AEROや、2000年のキャノンデールR1000AEROなど。そう、実は、キャノンデールも過去には、「エアロ形状」のロードを造っていたのだ。ただ、アルミでの製作は、ホイールも同様だが、エアロは完全に「重量化」となる。そのため、カーボン製となって初めて、スタートラインに立てたのではないだろうか。その意味で、先述の2006~2007年のサーベロのソロイストが、やはり、起源と言えるのではないかと思う。当時サーベロは言っていた、「ソロイストは売れなくてももいいんだ。ただ我々は最高のロードバイクを造れることを証明したい。」と。そんな、サーベロの技術の結晶が、ソロイストだった。
そして、ここで触れておきたいのが、「DHバーとサドル」だ。快適性において、大きなところはバイクであり、フレームだが、実際のフィーリングとして、DHバーとサドルのそれぞれの「合わせ」が極めて重要なのだ。
まず、DHバーだが、快適性を語る中で、DHポジションのことは外せない。DHバーそのものへの工夫、改善点も多くあるのだ。逆に、一昔はもっと考えられていたかもしれない。パッドの下にダンパーが付いているもの、パッドがGEL、パッドにエアが入るものなど、問題に気が付いていたメーカーはあった。エクステンションの形状も様々なものが出ている。「S字型」など単なる流行で存在するモデルもある。S字が大き過ぎて、フィーリングが悪いなどこだわりが見えない。そして、「完全電動時代」となった今、次はその「使い易さ」なのだ。その中で最終重要課題となるのが、スイッチの形状や取付位置となる。限りなく、「手首」を動かさず、「指」だけで変速ボタンを操作したいのだ。手首のブレは、DHバーのブレであり、ホイールのブレ。バイクの直進性を損ない、抵抗を増やす。「真っ直ぐ」走りたいのだ。バイクの「ストリームライン」と言ったところだろうか。
次に、サドルは、その周辺であり、サドルそのものより、シートピラーやフレーム構造にあるかもしれない。そもそもトライアスロンバイクの定義として「シートアングル」が立っていることにある。極端な言い方をすれば、昔ながらのクロモリバイクでもシートアングルが78°になっていればトライアスロンバイク、カーボン製で形状もエアロフレームだが、シートアングルが73°など寝ていれば、トライアスロンバイクではないと考えている。その重要なシートアングルだが、トライアスロンバイクでのフォームを見ると、「前後動」が著しく、そのための対応が必要なのだ。極端な前後動は別だが、サドルは定位置を離れ、前方に座れば、「低く」感じる。逆に、後方にスライドすれば、「高く」感じる。これは、前方に行った時は、DHポジションを取っているのだろうし、後方にずらした時は、登りで踏み込んでいるのだと思う。ただ、その動きに対して、サドル高は変わらない。この「動き」に対応できるパーツがあると最高だということなのだ。
最後に。勝手なことばかりを述べたが、これはすべて「必要」なことであることは間違いないと確信している。ただ、物理面やコスト面などで、簡単ではないこともあると思う。何年後に実現するのか楽しみに待っていたい。