3年ぶり3回目のバイクカウントとなった佐渡大会。国内では久しぶりのロング(通常距離)を見てみた。
コロナ禍ではあったが、取り巻く環境は以前よりは改善傾向にあったと思う。選手も二極化しているが、以前通りの練習をする選手も多くなって来ていた。全ては「気持ち」から始まる。それがあれば練習にも力が入る。また機材投入なども違ってくるだろう。
まず、前提としてどのような大会なのか。距離は国内最長のロングとなり、スイム4km、バイク190km、ラン42.2kmとなっている。バイクコースは概ね80%前後はDHポジションで走れるコースで上級者は更に長くDHで走るコースだ。アップダウンは、この長い距離の中にあるため、初めてこのコースを走る選手にとっては、ランに脚を残すのは容易ではない。ちなみに今回のランコースはほぼフラットなコースとなる。トライアスロンのバイクはランへの繋ぎ、コースによりバイクの走りも変わってくる。
ちなみにバイク車種の適性はコースだけで決まるものでない。それぞれのポテンシャル、メリットとデメリットなど基本性能はあるが、フィッティングがベターで乗りこなせていることが前提であることは言うまでもないだろう。例えば、普段トライアスロンバイクをメインに使用している選手が、ほとんど使用していないロードバイクで出場するということはナンセンスであるということだ。極論かもしれないが、より「人車一体」であることが望ましい。
そして、選手のモチベーションについては、概ね問題なかったと思われる。選考に関しては、20年からのスライドもあったため確実であり、新規も追加募集があったくらいの状況であり、その上で参加となった選手は3年ぶりのロングを待ち望んだ状況でのスタートだった。ただ、「レース勘」は完全に戻っていない選手も少なくなかったのではないだろうか。そんな状況での大会出場が前提の一つとなっている。
3年ぶりに開催された完全なロングで使用されたバイクはどんなバイクだったのか。機材は何を語ってくれるのだろうか。
2022 SADO Bike “ GERONIMO ” Count
GERONIMO COUNTは2015年からスタートし8年目に入った。バイクカウントは、元々コナで30年以上行われ、その使用率が話題となっていた。同様のカウントではあるが、「その先」が知りたかった。例えば、コナという最高の舞台でも実際の「選手層」は幅広い。エイジでのハンデはあるが、やはり「SUB10」で使用されるバイク、本当に速い選手が乗るバイクは何か?サーヴェロのシェアはダントツトップだが、人気のあるモデルは何か?など、もっと突っ込んだ「本当のこと」が知りたい。また、ワンバイやハイハンズなどトレンド以前の「兆し」も発見したかった。そんなカウントだ。
Traiathlon GERONIMO「Journal – Race Report」
順位 | ブランド | 使用台数 | 使用率 |
1 | cervelo | 145 | 14.7% |
2 | SPECIALIZED | 138 | 14.0% |
3 | TREK | 126 | 12.8% |
4 | ceepo | 92 | 9.3% |
5 | GIANT/Liv | 43 | 4.4% |
6 | FELT | 42 | 4.3% |
7 | cannondale | 41 | 4.2% |
8 | CANYON | 30 | 3.0% |
9 | BMC | 26 | 2.6% |
9 | BS/ANCHOR | 26 | 2.6% |
その他合計 | 262 | 26.5% | |
不明 | 3 | 0.3% | |
未確認 | 13 | 1.3% | |
68 | 合計 | 987 | 100.0% |
Counted by Triathlon GERONIMO
≪概況≫
今年の佐渡はサーヴェロが1位だった。国内の場合、KONAほどのダントツ感はなく、スペシャライズド、トレック、シーぽなどと三つ巴戦となることがほとんどだ。サーヴェロは2005年から今年5月のセントジョージのIRONMAN WORLD CHAMPIONSHIPまで16回連続トップシェアという脅威的な記録を更新中のスーパーブランド。
2018年と比較するとキャニオンやBMCがランクインしているが、特にキャニオンは世界的にも伸びていることはすでに周知の事実となる。トライアスロンばかりではなく、ツールドフランスなど世界最高峰のサイクルレースにも参戦し、セントジョージではフェルト、スペシャライズドと並ぶ「アイアンマン御用達」となっている。
そして、後述となるが、 TOP10への集中化とともに全体のブランド数の減少傾向が出ている。2018年の73ブランドから5ブランド減っている。「淘汰」されていると言うことなのか。
◆◆◆
今年の国内の最終戦となる佐渡大会のバイクカウントとなった。トライアスロンだけではないが、景気や昨今の事情に左右されながらの今シーズンだった。更に「高齢化」が顕著となるトライアスロンは特有の動きが見られる。
仕事ではない、遊びか。そうも言い切れないハードなトレーニングを週5日はこなしながら、仕事、家庭と言う「3つ皿」をバランス良く回し続けるトライアスリートは、理想的なライフスタイルの人々と言えるだろう。各方面の情勢が影響する生活そのものであり、バイク機材にも表れてくる。そこから見えてくる動向、傾向は大きく外れてはいないと考えている。
≪サーヴェロNo.1≫
今年の1位は、サーヴェロだった。やはり1位を予想する人は多いが、国内ではスペシャライズド、トレックの三つ巴の中で、国内を代表する佐渡大会で1位だった意味は大きい。今回は、115台がトライアスロンバイク、30台がロードバイクとなっているが、やはり、トライアスロン色の強さが出ている。サーヴェロ内の比率が高く、絶対的な使用台数となっている。サーヴェロはグレード設定の幅が広く、リーズナブルな価格設定も人気の理由だろう。
2位のスペシャライズドは、2022年のGERONIMO COUNTにおいて、石垣島、横浜(エリート)、彩の国、そして、皆生の4大会で使用率1位を獲っている。今回は、91台がトライアスロンバイク、47台がロードバイクとなり、更にトライアスロンバイクは現行のディスクSHIVが半数以上となる51台を占める人気となっている。SHIVは、エアロダイナミクス、軽量性、フューエルシステム、ユーザビリティなど、完成度の高いバイクとして人気だ。
3位のトレックは、アメリカのみならず、グルーバルなビッグメーカーとなり、その開発力は世界トップクラスとなる。素材を含め、ゼロから全てを作り出す完成度は極めて高い。そのためロングセラーとなるモデルも多い。今回は、42台がトライアスロンバイク、84台がロードバイクとなっている。これもトレックの特徴で、トライアスロンにおいては「ロードのトレック」となっている。一方で、トライアスロンバイクのSpeedconceptは人気があり、前世代モデルも色褪せない。
≪TOP10シェア≫
年度 | 総台数 | TOP10台数 | 使用率 |
2022 | 974 | 709 | 72.8% |
2018 | 970 | 652 | 67.2% |
※未確認除く
Counted by Triathlon GERONIMO
Top10ブランドへの集中傾向が顕著となる。2018年との比較のため、その差が大きく見えるが、72%を超えていることは、大きなトレンドとして捉えることができる。国内では概ね70%前後、KONAでは78%程度となっている。後述のトライアスロンバイクをリリースするメーカーに偏るとともに、同ブランドでロードバイクも揃えるなども聞こえてくる。また、トライアスロンバイクは「究極」のバイクであるだけにその開発力を持つメーカーが強いという裏付けともなっている。
【トライアスロンとロードの比率】
トライアスロンバイクとロードバイクの比率は大きくはコースに左右されるイメージがある。佐渡は、平均すれば80%以上はDHポジションで走れるコースだ。特に72km地点の鷲崎から161km地点の小木までの約90kmは「DHポジション」がその走りを左右する。特に水津からの向かい風の中でのDHポジションは重要な「スキル」となるだろう。必ずしも選択理由は一つではないだろうが、複数回出場している選手は「コース攻略」からのバイク選択をしているだろう。
年度 | 使用台数 | Triathlon | 比率 | Road | 比率 |
2022 | 974 | 513 | 52.7% | 461 | 47.3% |
2018 | 970 | 447 | 46.1% | 523 | 53.9% |
※未確認除く
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いずれにしても、このデータは2018年との比較ではあるが、6%以上高くなり、過去最高で、トライアスロンバイク傾向の強い宮古島の2019年51.8%を更新したことになる。僅かではあるが、そのトレンドが出ている。とは言っても国内でのトライアスロンバイク比率は低い。最高でも半数強ということなのだ。もちろん良い悪いではないが、より難しいトライアスロンバイクに挑戦することは、トライアスロン活性化であり、盛り上がりを示す一つの数値として捉えているだけに今後も注目したい。
≪TOP10ブランドのトライアスロンバイク比率≫
順位 | ブランド | 総台数 | Triathlon | 比率 |
1 | cervelo | 145 | 115 | 79.3% |
2 | SPECIALIZED | 138 | 91 | 65.9% |
3 | TREK | 126 | 42 | 33.3% |
4 | ceepo | 92 | 76 | 82.6% |
5 | GIANT/Liv | 43 | 8 | 18.6% |
6 | FELT | 42 | 31 | 73.8% |
7 | cannondale | 41 | 22 | 53.7% |
8 | CANYON | 30 | 28 | 93.3% |
9 | BMC | 26 | 22 | 84.6% |
9 | BS/ANCHOR | 26 | 2 | 7.7% |
709 | 437 | 61.6% |
※未確認除く
Counted by Triathlon GERONIMO
TOP10ブランドだけを見ると、トライアスロンバイクは60%を超えている。トライアスロンバイクへのイメージはこのあたりが現実的かもしれない。全体の7割を占めるTOP10の内、6割がトライアスロンバイクであるということだ。
トライアスロンバイクで見れば、サーヴェロのダントツは周知のことだろう。スペシャライズド、そして、3位となるジャパンブランドのシーポの3社が大きく貢献している。その他、キャニオン、BMC、フェルトなどは、ブランド内での比率が高く「トライアスロン」のイメージが強いことを物語っている。
【新型率】
昨年から特に注目しているのが「新型率」だった。コロナ禍があり、その数値の比較は単純には出来ないが、推移を確認している。その手段として「ディスクブレーキ仕様」のバイクをチェックしている。
ディスクブレーキは概ね早いメーカーで2016年モデルから始まり、2018年から2020年でそのフェーズに入った。2020年以降では「遅い」と言えるのだが、昨今の事情も相まって、遅れたメーカーも少なくない。大会の中止とともに、生産の優先順位、材料、パーツ調達の困難など、向かい風が厳しくなってしまった。
そんな状況はまだ完全に打破できてはいないが、以前よりは戻りつつある。「2023年モデル」と言われるこの時期では、カウントデータの信憑性も高まってくるだろう。トライアスロンバイクでは、単なるディスク化ではなく、全体からの見直しが必要なため、ディスク化というよりは新しいコンセプトのもとに新型がリリースされているため、時間はかかったが、ほぼ出揃った感となっている。
大会 | Disc | 比率 | Rim | 比率 | ||||
Tri | Road | 計 | Tri | Road | 計 | |||
佐渡 974 | 142 | 84 | 226 | 23.2% | 371 | 377 | 748 | 76.8% |
皆生 986 | 71 | 98 | 169 | 17.1% | 311 | 506 | 817 | 82.9% |
彩国 345 | 60 | 52 | 112 | 32.5% | 87 | 146 | 233 | 67.5% |
石垣 1010 | 240 | 23.8% | 770 | 76.2% |
※未確認除く
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結果は上表の通りの結果となった。TOP10ブランドへの集中化、トライアスロンバイクへの傾向などが高かったため、30%超えを期待していたが、意外と低い数値となった。他の大会との比較は参考となるが、彩の国で30%を超えたため、今後の最低ラインはこのあたりに落ち着くかと思っていたが、皆生では軒並み低かった。
佐渡も開催は絶対ではなかった。直前まで慎重な判断が求められる状況ではあったためか、機材の新規導入には影響があったと思われる。確実に開催となれば、やはり、最大のモチベーションアップとも言える「ニューバイク」は誰でも考えたいことだ。
話を戻すが、「ディスクブレーキ」は必要なのか、数年までに議論されたことだ。全ては安全性と考えている。ブレーキだけでなく、その前に行なわれていたのが「ホイールの強化」だった。路面と接しているのはホイールであり、制動力はブレーキだけではなし得ない。その意味では、より安全性の高まったバイクが増える傾向にもあるということはとても大切なことなのだ。
【人気のバロメーター】
新型率について述べたが、まさに「今」選ばれている人気モデルの一つの指標と言えるのが、ディスクブレーキ仕様のバイクとなる。ここでは、全体ではなく、ブランド別で、具体的にはどのメーカーが強いのか、と言うことを示している。ただ、ディスクブレーキ比率が23%程度に留まっているため、絶対的なものではないが、ブランド間の競争は大きく変わらない見込みだ。
順位 | ブランド | 使用台数 | Disc | 比率 | ||
Triathlon | Road | 合計 | ||||
1 | SPECIALIZED | 138 | 51 | 22 | 73 | 52.9% |
2 | cervelo | 145 | 44 | 12 | 56 | 38.6% |
3 | TREK | 126 | 11 | 22 | 33 | 26.2% |
4 | ceepo | 92 | 11 | 3 | 14 | 15.2% |
5 | FELT | 42 | 8 | 2 | 10 | 23.8% |
※未確認除く
Counted by Triathlon GERONIMO
結果は、スペシャライズドの1位で、特筆すべくは、全体シェアでは2位だったが、新型(ディスクブレーキ仕様)トライアスロンバイクという観点で見れば、サーヴェロを抜き、51台でトップとなっている。言い方を変えれば、「今年の佐渡で一番人気のあったトライアスロンバイク」と言うことができる。
SHIVは2018年のKONAでローンチされ、2019年モデルとしてスタート、今年で4シーズン目となるため、新型と言う言い方は似つかわしくないかも知れないが、実数とともにその存在感の大きなバイクだ。
【最後に】
三つ巴となったサーヴェロ、スペシャライズド、トレックだが、3社ともビッグメーカーだけに小回りは効かないが、KONAの結果は重要視していることだろう。トレックのSpeedconceptはまだ1年も経っていないが、サーヴェロP5は、スペシャライズド SHIV同様に2019年リリースとなるため、S5のようなブラッシュアップも期待される。
2016年KONAで発表された「P5X」は、リサーチから製法まで最高レベルの「ドリームマシン」として、歴史的なデビューとなったことは記憶に新しいが、世界では支持されなかった。2019年KONAで選ばれたのはP5だった。そして、現在、PX系はほぼ入手ができなかくなっている。国内では今も人気が高いが、やはりマーケットには限界があり終息方向となっているのだ。ただ間違いなくトライアスロンに適した良いバイクであり、ここでは語り尽くせない。残して欲しいバイクだ。。
一方で、PX系を無くすのであれば代わりの「ライン」の登場を期待したい。トライアスロンに注力するサーヴェロにはその期待がかかっている。サーヴェロにはトライアスロンを盛り上げる使命がある。
来月開催のIRONMAN WORLD CHAMPIONSHIPにおいて、そのトレンドや小さなサインにも注目したい。
その他のレポート:http://triathlon-geronimo.com/?p=42444