本日は、京都でトレックの新製品発表会が開催された。
既に新製品の概要は、お知らせした通りだが、今回は、その「開発」に関わるスタッフからのプレゼンテーションがあった。今、各社において、エアロダイナミクスが最も熱いと言っても良いだろう。1カテゴリーと見られがちだが、各社の「テクノロジーの結晶」がエアロロードでもある。全般的には、「軽量性」その結果として「登坂性能」の高いものも、人気となっているが、「オールラウンド性」を考えると絶対に必要なカテゴリーであり、最も難しい「エアロダイナミクス」との対峙があるのだ。現在UCIの重量規定から見れば、「軽過ぎる」バイクを活かし「エアロフォルム」にして、ちょうど良いものに仕上がるのだ。もちろん、UCI規定の関係ない多くの一般ユーザーは、「6.8kg」では物足りない。更に軽量なバイクを求める。「軽量性」は理屈だけではなく、単純に「心地よい」ものを直感として感じるからだ。ただ、ツーリングなどを楽しむユーザーも経験していることだが、実際に走るコースは、アップダウンもあれば、フラットもある。実際のイメージとしては、アップダウンをクリアし、フラットは、「高速」で走りたいという人も少なくないだろう。もちろん、用途、好みにより絶対はないが、明らかに、必要な「要素」を集結させたバイクが「エアロロード」であり、ここ暫く、「エアロダイナミクス」は、重要なキーワードとなるだろう。
Mio Suzuki – Analisis Engineer
今回、ゲストスピーカーとして来日したのは、トレック本社のエアロダイナミクスにおける日本人エンジニアである鈴木美央氏。CFD解析を行う唯一エンジニアで、風洞実験の最高責任者でもある。今回の新型マドンの開発チームであると同時に、昨年9月にイェンス・フォイクトがアワーレコードの世界新記録(当時)を樹立した際のサポートメンバーでもある。トレックが誇るテクノロジー開発の第一線で活躍する鈴木氏は、「私は、一番が大好きです。」と専門性の中にも楽しく、その「秘密」を話してくれた。
トレックはどのように究極を追求するのか?
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まず、開発プロセスとして、2,3年かけている。
① 現在の市場のバイク、アクセサリーの評価
② CAEツールを用いた設計イテレーション(CFD、FEA)
③ 風洞、Velodrome & フィールドでの検証
④ デザインの改善
⑤製造
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トレックのエンジニアリングの競争上の優位性?
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① シュミレーションとテストの専門家の知識を有した専門分析グループを持っている唯一のメーカー
② 最も洗練されたコンピューティング技術を使用(cloud Computing)
③ 業界初、マルチフィジックスアプローチ(FEA+CFD)
④ 業界初、最適化ソフトウエアを使用(HEEDS)
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CFDデータの誤差を3%以内にするため、CFDの新しい手法として、 空気抵抗だけではなく、下記の要素も加味している。
① 表面流動が分離する方向
② バイク表面付近に発生する低エネルギーの渦・乱流
③ 後方乱流の量
④ 局所的、蓄積された空気抵抗分析
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CFD解析の例:空気分離および乱流構造
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2013年モデルは、ヘッド周り後方、シート周り後方が赤くなっていることがわかる。これは、乱流が発生している箇所となる。そして、2016年モデルでは、その「赤」が少なくなっていることがわかる。
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2013年モデルに対して、PROTO X の方が、「黒い筋状」のものが多く見ることができる。これは、空気の流れを示していて、フレーム表面を滑らかに通り過ぎている。これにより乱流発生が起きていない状態が確認できる。
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Efficient Airflow Over The Components
フロントブレーキは、カバーではなく、一体状のデザインとなっている。カバーでなくても同等のエアロ効果があり、メンテナンス性を優先している。またハンドル、ステムのエアロダイナミクスにもこだわっている。ハンドルは、プロレベルで3Wセーブになるとのこと。また、ステムの上はフラットになっているが、これは、一般的なフォークコラムがステム上に残っている場合、エアロダイナミクスが落ちてしますからなのだ。
Design Iteration Using CFD and FEA
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究極のレースバイクは、速いだけではなく、マドンが知られてきた優れたハンドリングを持っている必要がある。空気力学解析と構造解析を同時に進める事によって全ての面で最高のパフォーマンスのフレームを完成させた。
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Riding Load Analysis:Cornering Model
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高速コーナー時に起こるダウンチューブ中央に発生する歪のコンピューター予測と実測値が非常によく一致している。
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Water Bottle Location Optimization
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コンピュータの計算結果からボトルの取付位置の組み合わせを、140回のシュミレーションを繰り返した。そして、最適なソリューションは、フレームとウォーターボトルの空気抵抗を5.5%低減した。
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Design Validation : Wind Tunnel
風洞実験はサンディエゴで行っている。
Wind Tunnel Data
旧型及び各社と比較では、極めて高いエアロダイナミクスを持っていることがわかる。ヨー角15度では、その性能が顕著に現れている。
鈴木氏、実はトライアスリートでもある。帰国後、地元アメリカで3レースの予定があるとのこと。アメリカ在住20年の彼女は、「来年は、日本のレースも出てみたい」と言っていた。
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「開発には、何人もトライアスリートがいます。もちろん、コナレベルのトライアスリートもいて、中には、エイジ入賞するレベルの人もいます。やはり自分たちで使ってみないと開発できないですよね。」
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ユーザー目線での開発にも余念がない、そんなトレックの開発スタッフの声は、熱いものがあった。更なる、トレックの進化、そして、トライアスロンへの注力を大いに期待できる感触があった。
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Triathlon “ MONO ” Journalist Nobutaka Otsuka