ITU世界トライアスロンシリーズ横浜大会のエリートレースで使用されるバイクの詳細分析を行った。
まず、この大会の特徴として、「トライアスロンバイク」を使うタイプではなく、「ロードバイク」を使ったドラフティングルールのトライアスロンとなる。したがって、バイクパートは、ロードレースのように見える。一般エイジ選手にとっては、関係ないように思うかもしれないが、昨今、こだわって「あえて」のロードバイクも少なくない。またエイジが上がる中で、ロードバイクの優位性もあり、参考となる点もある。
下記の通り、各項目でチェックしているが、まずは、トライアスロンで使用するバイクの「定義」となる三項目をチェックしている。ロードレース化されたエリートのレースで「トライアスロンバイク要素」はどうなっているのか。トライアスロンの原点となる「エアロダイナミクス」に関わる、フレーム形状、ホイール、DHバーはどのように使用されているのかをチェックしている。また、競技性とともに「ユーザビリティ」を向上させる電動の変速システムの使用率はどうか。そして、「トレンドパーツ」も導入されているのか、など総チェックしている。
前提として、2018年の横浜大会108選手の結果であり、全てを計るものではないが、概ね、方向性について大いに参考になると考えている。
【エアロロード】
2010年のVENGEから脚光を浴び始めたエアロダイナミクスを高めたロードバイクだ。もちろんそれまでもエアロダイナミクスを追求したロードバイクはあったが、軽量性、快適性、そして、より高いエアロダイナミクスのための設計など、それまでのものとは違った。このカテゴリーは、スタンダード化し、当然の求める機能として、大きく話題になることはなくなった。スペシャライズドやトレックのようにカテゴリーを明確に分類しているメーカーは、軽量性を含めたオールラウンド、悪路、長距離、快適性などのエンデュランスロード、そして、エアロロードとなる。一方、カテゴリーで大きく分けてはいないが、エアロダイナミクスを高めているモデルもある。ピナレロのドグマなどがそれにあたるだろう。いずれにしても8年が経ち、その「傾向」を確認したい。
フレーム | 男子 | 女子 | 合計 | 使用率 |
エアロ | 32 | 22 | 54 | 50.0% |
非エアロ | 23 | 31 | 54 | 50.0% |
合計 | 55 | 53 | 108 | 100.0% |
※Counted by Triathlon GERONIMO
今回のエアロロード比率は108台中の54台で、50.0%だった。2015年では、38.7%だったのでこの3年で確実に伸びてきている。ただまだ絶対数は少ないのではないか。やはり単独走行ではない、ドラフティングのため、軽量ロードなどを選択する選手も少なくないのだろう。特に女子は、エアロロード比率は低い。理由としては、設計上モデル設定がない、剛性が高過ぎる。重量化などが挙げられるだろう。単純な計算として、女子の使用率が高まれば、全く違う結果となる。競技性、ユーザビリティを考慮し、女性トライアスリートのためのエアロロードの選択肢が増えると良いのだろう。
順位 | ブランド | モデル | 使用台数 | 使用率 |
1 | TREK | MADONE | 7 | 13.0% |
1 | SCOTT | FOIL | 7 | 13.0% |
3 | TIME | SCYLON | 4 | 7.4% |
4 | Dedacciai | SCURO25 | 3 | 5.6% |
※Counted by Triathlon GERONIMO
エアロロード全54台の中で、最も多く使われているエアロロードは、トレックMADONEとスコットFOILだった。ともにエアロロードの代表格となる。特にMADONEは、トライアスロンモデルのSPEEDCONCEPTからのフィードバックを受けて、徹底したエアロダイナミクスとともに、高くなりがちな剛性で落ちてしまう快適性を向上させるなど、「エアロダイナミクスだけ」ではない完成度を誇っている。その他モデルでディスクブレーキ仕様の場合は、エアロダイナミクスが異なるためノーマルと分けてカウントしている。
【ホイールリムハイト】
ホイールは、フレーム形状と同様だが、トライアスロンにおいて「エアロダイナミクス」は必須であり、特徴的なパーツでもある。だが、このODエリートレースの特殊性から必ずしも、アイアンマンでの使用状況とは異なる。先頭を引くことを想定すれば、必要となる。また、スイムで出遅れた場合、小集団でのペースアップにも有効だろう。そして、先頭集団では、エアロダイナミクスよりも「軽量性」や「コントロール性」を重視する中で、それらの機能を維持しつつ、エアロダイナミクスの高いホイールなど進化も著しい中で、選択されていることもあるだろう。
そして、ホイールの使用率は、下記の通りの結果だった。
順位 | ブランド | 使用台数 | 使用率 |
1 | SHMANO | 19 | 17.6% |
2 | ROVAL | 18 | 16.7% |
3 | ZIPP | 14 | 13.0% |
4 | MAVIC | 12 | 11.1% |
5 | LightWeght | 5 | 4.6% |
※Counted by Triathlon GERONIMO
やはり、シマノは、コンポーネントとトータルでサポートされているのだろう。ロバールは、スペシャライズドのホイールブランドということもあり、バイクの使用台数に比例している。ジップ、マビックは、ホイール専門メーカーであり、アイアンマン同様にその専門性の高さをもって上位にランキングしている。また、超軽量で知られるライトウェイトも5台ながら5位についている。
リムハイト | 男子 | 女子 | 合計 | 使用率 |
50mm以上 | 32.5 | 24 | 56.5 | 52.3% |
31~49mm | 21.5 | 24.5 | 46 | 42.6% |
30mm以下 | 1 | 4.5 | 5.5 | 5.1% |
※Counted by Triathlon GERONIMO
結果としては、50mm以上のリムハイトが半数を超えていた。2015年の49.1%から3.2%伸びている。同時に31~49mmは、2015年に44.3%だったので、減っている。数値的には、よりリムハイトは高くなる傾向と言えるだろう。エアロダイナミクスと言う点では、単独走行、集団走行、それぞれメリットになるタイミングが違うが、ホイール剛性がもたらす「高速巡行性」においては、共通したメリットとなる点として重視されているかもしれない。
【DHバー】
DHバーは、トライアスロンの「象徴的」なパーツと言えるだろう。単独走行時に前面投影面積を小さくし、エアロダイナミクスを高めるために使用するパーツだ。エイジレースやアイアンマンなどノンドラフティングのレースでは、当たり前のパーツだが、先述の通り、ODエリートレースのドラフティングルールの中では様々な対応となっている。ちなみにここで使用されているDHバーはITUルールに基づくショートタイプであり、エイジレースで使用されている長い(普通)DHバーではない。
DHバー | 男子 | 女子 | 合計 | 使用率 |
使用 | 23 | 20 | 43 | 39.8% |
不使用 | 32 | 33 | 65 | 60.2% |
合計 | 55 | 53 | 108 | 100.0% |
※Counted by Triathlon GERONIMO
結果は、4割弱だった。ODエリートレースの中で「トライアスロンバイク度」を測るフレーム、ホイール、そして、DHバーを見た時に最もトライアスロンバイク度の低い結果となっている。実は、2015年の使用率は、35.7%だったので、増加傾向ではある。
【電動変速システム】
電動変速システムは今や「絶対的」なパーツと言えるだろう。認知はもちろん、普及率も高まっている。2012年のシマノULTEGRA Di2のリリースにより、スタンダード化した高機能パーツだ。ユーザビリティとして最大のメリットをDHバーとハンドルのそれぞれから変速できることを挙げる選手が多いだろう。ただ、このレースでは、DHバーの脱着を想定しているため、変速は、ハンドルのみとなっている。このあたりが、100%使用率とならないことと関係しているようだ。
電動変速 | 男子 | 女子 | 合計 | 使用率 |
使用 | 34 | 31 | 65 | 60.2% |
不使用 | 21 | 22 | 43 | 39.8% |
合計 | 55 | 53 | 108 | 100.0% |
※Counted by Triathlon GERONIMO
2015年では、30.6%の使用率だったので、大きく伸ばしている。ただ、電動変速に関しては、もっと高い数値を期待していた。先述の通りだが、DHバーとハンドルの両方で変速を想定していないことにより「絶対的メリット」がエイジレースやアイアンマンレースと比較すると落ちるのだ。また、ワイヤー引きの性能も向上していて、フレームの構造にもよるが、変速時の動作も極めて軽くなっている。もちろん、「電動」は格上であることは間違いなく、今後様々なパーツが「電化」される中で、多様性に繋がる重要なシステムでもある。電動とワイヤ―引きの「2WAY」が存在すれば、どうしても比較ということになる。外国選手が多い中、メカトラブルなどを想定している選手もいるだろう。可能性を挙げれば、それなりになるが、変速の「電動化」は、今や、競技において「標準」と言っても過言ではないだろう。
順位 | ブランド | モデル | 使用台数 | 使用率 |
1 | SHMANO | DA Di2 | 42 | 64.6% |
2 | SRAM | RED eTap | 13 | 20.0% |
3 | SHMANO | ULT Di2 | 10 | 15.4% |
合計 | 65 | 100.0% |
※Counted by Triathlon GERONIMO
2015年では、「Di2」そのものの状況を見ていたが、スラムもリリースし、しかも勢いを感じさせるブランドだけにその動きは気になるところだ。結果の通り、圧倒的にシマノが多い。2015年では、シマノオンリーだった30.6%から、48.1%と、「シマノDi2」の使用率は伸びている。ただ、「ワイヤレス」を実現させたスラムへの期待感があり、今後の「電化」にも関わるキーワードとして、その存在が大きくなりつつあることも確かだ。2018年モデルへのスラムの搭載率が伸びていることもそれを裏付けているのではないだろうか。
【ディスクブレーキ】
2018年で勢ぞろいとは言えなかったが、多くのブランド、モデルでリリースされた。実質の元年と言って良いだろう。ディスクブレーキの普及はホイールとの関係性が強い。ホイール、ブレーキともに「安全性」に大きく関わるパーツだ。リムのワイド化など、走行面の前にまず安全性だ。スポーツバイクが進化し続ける中で、再度安全面について考えられている。高速回転をし続けるホイールの強度、耐久性、そして、ワイド化されたリムへの対応として、アーチ型のリムブレーキではなく、制動力の高いディスクブレーキとなったことは、同時であり、当然の結果だった。また、「トライアスロンバイク(モデル)」の設計においては、ヘッド周辺の設計において、自由度を高めている。
Dブレーキ | 男子 | 女子 | 合計 | 使用率 |
使用 | 10 | 4 | 14 | 13.0% |
不使用 | 45 | 49 | 94 | 87.0% |
合計 | 55 | 53 | 108 | 100.0% |
※Counted by Triathlon GERONIMO
結果は少なかった。ある程度低い数値を想定していたが、低過ぎた。各ブランド明らかに動きがある中、選手への供給とはギャップを感じる。ホイールも関わるため、プロの場合、サポートが決まっているとフレームとの組み合わせが出来ない場合も考えられる。エイジ選手で言えば、フレームとホイールともに「ディスク仕様」になっていなければいけないということだ。いずれにしても少し時間がかかりそうだ。
順位 | ブランド | モデル | 台数 | 使用率 |
1 | SPECIALIZED | TARMAC DISC | 5 | 35.7% |
2 | SPECIALIZED | VENGE DISC | 2 | 14.3% |
2 | Dedacciai | SCURO25 | 2 | 14.3% |
3 | BH | G7 DISC | 1 | 7.1% |
3 | SCOTT | ADDICT RC ULTIMATE DISC | 1 | 7.1% |
3 | Dedacciai | SCURO25 | 1 | 7.1% |
3 | CUBE | AGREE C:62 SLT DISC | 1 | 7.1% |
3 | FELT | FR FRD DISC | 1 | 7.1% |
合計 | 14 | 100.0% |
※Counted by Triathlon GERONIMO
ディスクロードを投入していたのは、上記の通りだった。やはり「ディスクのスペシャ」が強かった。スペシャライズドブランドとしては、50%のシェアとなっていた。
【ビッグプーリー】
ビッグプーリーもトレンドパーツとして気になるところだ。効果の大きさは、「体感」できる数少ないパーツでもある。回転時の抵抗が大きく軽減されることで、ペダリング効率を向上させている「アイデアパーツ」だ。ビッグプーリーは、チェーン、プーリーのベアリングの摩耗を抑え、最大の体感は、アウターローでの状態で確認できる。各社鎬を削りリリースしているが、プーリーケージ(本体)の剛性が大きなポイントとなるだろう。
Bプーリー | 男子 | 女子 | 合計 | 使用率 |
使用 | 12 | 1 | 13 | 12.0% |
不使用 | 43 | 52 | 95 | 88.0% |
合計 | 55 | 53 | 108 | 100.0% |
※Counted by Triathlon GERONIMO
使用率は低かった。先述の通り、効果は極めて高いが、リアディレーラーの「改造」ともなるので、このエリートレースでは、サポートの関係もあるだろう。
順位 | ブランド | モデル | 台数 | 使用率 |
1 | ceramicspeed | OSPW System | 11 | 84.6% |
2 | KCNC | Jockey Wheel System | 1 | 7.7% |
3 | RIDEA | C38AERO | 1 | 7.7% |
合計 | 13 | 100.0% |
※Counted by Triathlon GERONIMO
セラミックスピードの圧勝だった。セラミックスピードは、セラミックベアリングのトップサプライヤーで、デンマークのブランドだ。18年以上の実績を持ち、一般産業部門とは別に、自転車専用部門があり、各メーカーへの供給をしている。そして、オリジナルとして、ヘッドパーツ、ホイール、BB、プーリー、チェーンなど、回転性能に関わるパーツをハンドメイドで製作している。アイアンマンハワイ出場のトップ選手サポートからエイジ選手まで、トライアスロンへの注力度も高く、ダントツ1位の使用率となっている。また、ジップホイールへのベアリング供給も行っている。
【パワーメーター】
ノンドラフティングのトライアスロンの場合、レースでは、ほぼ「一定」のマイペースを刻んで走る。一定にすることが最も効率が良い走りとなるからだ。では、その一定とは「何」を一定にするのだろうか。もちろん、速度ではない。ハートレートが一般的だったが、リアルタイムでペースを一定にできるのが、パワーメーターなのだ。ロードレースでは、タイプによるが、速度の加減速もあり、駆け引きというタイミングもある。それに対し、トライアスロンでは、練習からレースまでフル活用が可能となるだろう。もちろん、距離、コースにも影響はされるが、概ね「コンスタント」な走りがベストパフォーマンスに繋がる。電動変速システムDi2もトライアスロンでの使用は、大きなメリットがあったが、同様にパワーメーターもトライアスリートにこそ、必要なアイテムと言えるだろう。
Pメーター | 男子 | 女子 | 合計 | 使用率 |
使用 | 36 | 24 | 60 | 55.6% |
不使用 | 19 | 29 | 48 | 44.4% |
合計 | 55 | 53 | 108 | 100.0% |
※Counted by Triathlon GERONIMO
パワーメーターは、先述にもあるが、「レース」と「トレーニング」での使用から考えると、ロードレースのようになるODエリートレースの場合、パワーメーターによる一定の走りは関係なくなってくる。ドラフティングにより設定したパワーも余裕が出てしまう。だからと言って、エスケープする必要もない。集団の状況によって可能な限り脚は温存しておく。集団のペースが上がれば、設定パワーを超えることもあるが、レースポジション、ランの優劣など総合的に判断し、走ることになるだろう。したがって、「トレーニング用」のバイクに付いているかどうかが「本当」の数値となってくる。ただ、パワーのみのデータ収集ではないので、概ね現実的な「今」の数値と言えるのではないだろうか。
順位 | ブランド | タイプ | 使用台数 | 使用率 |
1 | SRM | クランク | 13 | 21.7% |
2 | QUARQ | クランク | 10 | 16.7% |
2 | PIONEER | クランク | 10 | 16.7% |
4 | GARMIN | ペダル | 8 | 13.3% |
4 | ROTOR | クランク | 8 | 13.3% |
6 | powertapP1 | ペダル | 3 | 5.0% |
6 | SHIMANO | クランク | 3 | 5.0% |
8 | power2max | クランク | 2 | 3.3% |
8 | SPECIALIZED | クランク | 2 | 3.3% |
10 | STAGES | クランク | 1 | 1.7% |
合計 | 60 | 100.0% |
※Counted by Triathlon GERONIMO
使用率1位は、SRMだった。SRMは、1986年創業のドイツブランドで、トレーニングシステムの第一人者的老舗ブランドだ。第2位のQUARQは、ハワイアイアンマン使用率No.1ブランドだ。第3位は、日本人選手に多く使用されていたのが、PIONEERだ。パワーベクトルがモニタリングできる画期的なものだ。そして、第4位のガーミンはペダル型としてイージーインストールで、バイク複数台で共有できるメリットなどがある。第10位ではあるが、STAGESは、女子優勝者、ダフィが使用しているものだ。
各社それぞれ特徴があるが、老舗としてのSRMは存在感が多き。SRMは、古くは、ツールドフランス3勝のグレッグレモンが使用し、アイアンマンでは、優勝2回のノーマンスタッドラーも取り入れていた。プロサイクリストにも多く使用されている。現在、第8世代のPC8は、単なるパワー計測アイテムとは少し違うもので、パワー計測ありきではなく、出場するレースに向け、トレーニングのピークを「合わせる」ための自己管理アイテムの要素が大きい「頭脳系」アイテムだ。価格もリーズナブルとなったが、これには、クランクなどは含まれない。逆に、クランクは、ant+の通信方式であれば、各社のクランクが使用できる。SRMは、本来、その人の身体の管理をするもので、選手ではなく、監督が選手の状態を把握するためのアイテムと言っても良いだろう。また、以前のワイヤードタイプであれば、より細かく計測ポイントの解析ができ、トラックなどの短距離での有効性が極めて高かったが、コスト高だった。今回は、長時間、長距離となるトライアスロンなどには、十分な対応能力となり、その分、コストダウンになった。
最後に。プロ選手への実戦投入は、今後の開発に大きく影響してくるが、トライアスロンの現状は、見るスポーツではなく、やるスポーツだ。したがってエイジレースでも即、効果を発揮するものに人気が出るだろう。ペダル型のパワーメーターなど、手軽さでは人気アイテムとなるだろう。
「気になったアイテムは?どれも重要!」
Triathlon “ MONO ” Journalist Nobutaka Otsuka