第4回

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Triathlon LUMINA No.48

P73~75 Mare Ingenii Tri BIKE CHRONICLE

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カーボントライアスロンの本格始動と、完全制覇のP3時代突入

このクロニクルの第4回目は、激動の2000年後半に入る。この5年間では、完全に「カーボントライアスロンバイク」の時代となった。2005年ツールドフランスで使用された「サーベロP3」。ホイールは「ZIPP」を組合せ、「トライアスロンバイク」がツールを走っている、そんな印象だった。各社、それまでの「迷い」も消え、本格始動となった。サーベロやキャノンデールのカーボン化が、拍車をかけ、2008年には、トレック、キャノンデール、ピナレロのカーボントライアスロンバイクの「完成車」が出揃った。それまでは、高額なフレームセットでの販売がメインだったが、大手ブランドの完成車のリリースが、その「勢い」を物語っていた。価格は38~42万と、トライアスロンバイクとしては、リーズナブルで、「カーボントライアスロン40万バトル」が始まった。

まず、各社の動きだが、トレックも、大きくトライアスロンへの本格始動の時期だった。カーボン系として、2000年デビューの「TT」その後、2004年「トライアスロン用」と位置づけたエキノクスシリーズがあった。ただ、TTの代用は否めなかった。そして、2005年のツールでランスが使用した「TTX」が話題となったが、ランス専用設計だったため、即市販化はされなかった。ただ、同年のハワイで非公式に発表されたのだ。当時トレックジャパンにも確認したが、「正式発表はない」とのこと。独自の「スクープ」として、当時の専門誌で情報を公開した。そのスクープは、会場が用意されていたわけではなく、バイクショップの一角を使い、フレームにハンドル、サドル、クランク、ホイールだけを付けた状態だったが、メーカースタッフが来て説明をしていた。今でもあの時の「興奮」は忘れない。製品化は、2006年中と言っていたが、モデルとしては、2007年にリリースされた。このTTXは、外観上はそれまでの、TTとは大きく違い、シートアングルは立ち、シート周りのエアロダイナミクスが高められ、ヘッド周りも同様に向上させられていたのだ。やはりトライアスロンバイクの最も重要な定義は、「シートアングル」だ。このTTXのデビューは、明らかに今までの同社のラインナップとは違うジオメトリーだった。

次に、キャノンデールは、前号でも紹介したが、アイアンマンのオフィシャルバイクだった。06年までは、フルアルミ、07年モデルとして、カーボンとアルミのハイブリッドフレーム「SIX13」をリリース、アルミを得意とし、それにこだわっていたが、徐々に変化が見られた。そして、ついに08年に、フルカーボントライアスロンバイクの「SLICE」がデビューしたのだ。キャノンデールらしい、デザイン性の高さ、軽量で振動吸収性の良い、初年度から完成度の高い仕上がりだった。その他、スペシャライズドTransition、ピナレロFT1、クウォータKUEEN-K、スコットPLASMA2、ルックKG596Triathlon、オルベアORDU、アルゴン18E114、BH GC  ChronoAero、フェルトDAなど、2000年後半は、ニュートライアスロンバイクのデビューラッシュだった。

そして、ここで当時の注目すべきブランドを紹介しよう。日本ブランドのシーポだ。シーポは、2004年のデビューとなるが、エアロフレームの本格デビューは、2006年。「TTベノム」は、今でも遜色ないもので、超人気モデルとなり、「シーポ」のクウォリティを確立した一台だった。その後は、アイアンマンオフィシャルバイクとなったことは、記憶に新しい。2013年にハワイアイアンマンで、使用台数が50台を突破、見事世界ブランドに仲間入りしたのだ。個人的なイメージだが、ハワイでは、「50台」を超えて初めて認められるのではないかと思っている。そして、昨年は、72台で使用台数が7位となったのだ。シーポ創設10年目にして快挙と言えるだろう。

この5年は、一気に完成度の高いトライアスロンバイクを各社が揃ってリリース。バイクの機材バトルが激化して来たのだ。設計、素材、精度など、「エアロダイナミクス」を追求するときに必要なキーワードは、随所で注目されるようになってきた。ただ単に扁平形状をしているものが、「トライアスロンバイク」ではなく、「エアロロード」もトライアスロン用ではない。ただ、代用が可能なバイクなのだ。この連載の第1回目でも書いたが、「トライアスロン=アイアンマン」として、造られているのが、「トライアスロンバイク」であることには間違いない。アイアンマンだけではないが、「ロングディスタンス」を効率良く走るための機材であり、そのための設計、素材、精度となってきた。もう長くトライアスロンバイクが流行り、定着したかのように感じるが、実際は、2007年のP3、2008年の40万バトルなどが、起源であり、まだ10年は経っていないのだ。

そして、この00年後半を代表する「レジェンドバイク」について、語りたい。そのバイクとは、「cervelo P3」だ。カーボン化された初代のP3のことで、2006年~2013年までの8シーズン販売。P3と言えば、何と言っても特徴的なシートチューブだった。これは、前作のアルミフレーム時代から継承しているデザインで、実は、サーベロ人気の起源は、15年前に始まっていた。そのデザインは、リアホイールとのクリアランスを可能な限り少なくした。シート周り後側は、空気の「乱流」が大きく発生する箇所で、フレームデザイン上、最も難しいとされている。このシートチューブ形状が他社にも大きな影響を与え、スペシャライズドの初代SHIVやジャイアントのトリニティなど、完全にP3を彷彿させるデザインだった。また、シートチューブの「前側」のRデザインも他社に多く見られた。このシート周りを「サーベロ型」と称した。シートピラーの固定部周りもサーベロ特有で、トップチューブをそのまま延長させ、横から見えば、シートピラーの入る「立上がり」がなかった。先述の通り、シート周りは、乱流が起こるため、なるべくシンプルなデザインが求められる。そんな中、極めてシンプルな、デザインで納めたのだ。また、特筆すべくは、フレームの断面形状にある。今では、トレックの「KVF」が主流になりつつあるが、サーベロは純粋な「翼断面」であり、極めて「薄く」造られたいたのだ。当時はその「厚み」が話題となるほどだった。そして、P3はデビューが成功している。2003年からCSCと契約、ハミルトン、バッソ、サストレとつなぎ、08年ついに、サストレ個人総合1位、新人賞、チーム総合の3冠を獲った。そして、同年2008年にハワイアイアンマンにおいても史上初の400台超えとなり、ロード、トライアスロンで「完全制覇」となったのだ。このP3は、未来永劫、語り継がれるバイクであることは、間違いない。そして、「不動の地位」を得た。最後に。サーベロに関しては、多くの「実績と歴史」があり、ここですべてを書ききれない。

2000年後半の動きは、ロードから独立し、「トライアスロンのためのバイク」となったのだ。そして、この後、その競争は激化し、より研ぎ澄まされたテクノロジーで、「究極」なトライアスロンバイク「仕上げ」の時代に入るのだ。

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【後記】今回の参考資料のひとつ。非公式に持ち込まれたエキノクスTTX。TTではない、トライアスロンとしてのTTX。シートアングルなどジオメトリーも変更となった。簡単な仮組みで雑然と展示されていた。後ろには、ティムデブームやカレンスマヤーズが座っている。(トライアスロンJAPAN2006年1月号にも同様の記事を寄稿)

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これが、2005年アイアンマンで、ティムデブームが使用していた、TTとしての「TTX」。このモデルの使用も異例だが、当時、それよりもホイールが気になった。ランスプロジェクトの一環としてボントレガーのホイールはHEDとコラボで製作されたいたが、このリアホイールはラインナップされていない、スペシャルハイトだった。HEDは、CX Deepなどハイトのあるディープリムを早くから着手していたからだろう。

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「来月は2010年全半について。現在のバイクですね。」

BOSS-N1-STriathlon “ MONO ” Journalist   Nobutaka Otsuka